Top > Season 4 > Episode 16

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[4.16] The Unnatural
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第1幕


第1場-ラジオ局

フレイジャーは机に座って電話に出ている。
フレイジャー:[電話に向かって]8歳になる私の息子が今週末私の所に来るんですよ、でマイクロソフトの複合施設の見学に連れて行ってくれるか、ってわざわざ指定してきたんですね、それでおたくの方針について…[]それは残念です。[]私の有名人としての地位を引き換えにするなんて滅多にやらないんですが、フレイジャー・クレインと聞いて何か感じませんか?[]それは残念です。えー、それじゃあ、いつか、あなたの親戚が私の職場を見学したいとお考えになった場合は、全面的に可能で…[]ラジオ局ですよ! もう結構![電話を切る]
ロズとブルドッグが汚れたKACLの野球のユニフォームを着て現われる。
ロズ:近かったんなら大した話じゃなかったけど、私は1マイル分滑り込んだのよ! 1マイル!
ブルドッグ:落ち着けよ、強打者さんよ、まあいいさ。
ロズ:1マイルよ!
フレイジャー:ということは負けたのかな。
ブルドッグ:いや、試合には勝ったの、でもロズが審判に楯突いたもんだから退場させられちゃってさ! それでロズが審判の靴に泥を蹴りつけて、胸に頭突きを食らわせて、審判がロズの顔に指を突きつけたら指に噛みつきそうになって。あんなことコーチできないよな。
ロズ:いい、二塁に一人いて、一人はアウト、で外野手のギャップに一発お見舞いしたわけ。カットオフへの投球が遅くて、一人はホームでセーフだったんで、私は二塁まで伸ばそうとしたの。タッチをすり抜けて素晴らしいフックスライドを決めてやった。なのにどうしてアウトになるわけ?!
フレイジャー:試合の真っ最中にどうしてGapのブティックまで運転していったのかまだよくわかってないんだけど!
ブルドッグ:土曜日の試合のメンツを考えなきゃいけないからもう行くよ。面白いんだぜ。
ロズ:ね、二塁やらせてもらえる?
ブルドッグ:あー、ごめん、二塁はリズ・バドナーなんだ。
ロズ:リズ・バドナー?! 何で? 私ができないことで彼女にできることがある?
ブルドッグ:あんたがやろうとしないことをやってくれるんだよ!
ブルドッグは出て行き、フレイジャーはロズについて彼女のブースに入ってくる。
フレイジャー:ねぇ、ロズ、お願いがあるんだ、マイクロソフトの役員と付き合ってなかったっけ?
ロズ:やだ、[ぞっとした様子]スコット・ブランクマン! ゲッ、ひどい別れ方した話。振った後も電話かけてくるのをやめないの。最初は言い訳してたわ——「あっ、ごめん、短縮のボタン間違っちゃった」とか言って——。それからふりをするのはやめちゃって、電話の向こうからすすり泣き! しまいに言ってやったわよ、「スコット、あなたと話すのは金輪際お断り!」 ところで何で聞いたの?
フレイジャー:彼に電話してもらいたくて。
ロズ:何ですって?!
フレイジャー:フレドリックが今週うちに来るんだ。唯一、彼が僕に頼んできたのはマイクロソフトの見学で、実を言うと、その、連れて行ってやるって約束しちゃったんだ。
ロズ:フレイジャー、あなた私に、私のアパートの外にキャンプを張って「ロズ・ドイルは愛することを恐れている!」って大きな看板を掲げた男に電話しろって言う気?
フレイジャー:わかったよ。君がもう少し共感してくれると思ったんだ、それだけの話。
ロズ:無理。
ロズは自分の紙挟みを取り上げてチェックする。フレイジャーはブースを去ろうとする、が扉の所で立ち止まる。
フレイジャー:最近君が話してくれたことを思い出すよ、ウィスコンシンに住んでいる若い女の子がボビー・シャーマンがショッピング・モールを開店したのを見たくてシカゴまで車で連れてって、って母親に必死で頼んだ。[ロズは気づく]でも母親はあまりに忙しかったんだ。その女の子はその晩どうしたか? 自分の小さいボビー・シャーマン枕で泣きながら眠ったんだな。
ロズ:[電話を取って、フレイジャーに向かって]あんたなんか大嫌い!
彼女は電話をダイヤルし、フレイジャーは満足げな笑みを浮かべて出て行く。
溶暗

第2場-

玄関のベルが鳴る。フレイジャーが扉を開けてナイルズを迎える。
フレイジャー:ナイルズ。
ナイルズ:おはよう、フレイジャー。フレドリックはもう来た?
フレイジャー:おじいちゃんと早朝のお散歩に出ちゃったよ。
ナイルズ:今朝、古いアルバムを見てたら僕らがフレドリックの歳の頃の写真が何枚か出て来たよ。
フレイジャー:おやおや。
ナイルズ:フレドリックが喜ぶかと思って。
ナイルズは写真を渡して笑う。
ナイルズ:ね、ここに僕らがいる、初めてのカブ・スカウトのハイキングでおめかししちゃってさ!
フレイジャー:最後でもあったな!
ナイルズ:そうだったね、正直みんなに打ち解けきれなかったもんね。他の子達はみんなナップサックを持っているのに僕らはモノグラム付きのトランク持って現われてさ。
フレイジャー:[写真を見て]ナイルズ、僕は思い出せないんだけど、なぜ僕らは腰にプラスチックの鼻と小さい水浴びプールを巻きつけてるの?
ナイルズ:忘れちゃったんだ。あのハロウィーンの時僕らは「ピッグス湾」の仮装をしたんだよ。
フレイジャー:あっ! そうだった、思い出したよ、全くウケなかったんだよね。僕ら、とうとう自分たちが「白豚の湖」[訳注:Swine Lake]をやってるって言わなきゃいけなくなったんだ。もっともそれもウケなかったけどな。長い夜だったよ。
ナイルズ:だね。それで、兄さんは今回フレドリックに何をしてやる心づもりでいるの?
フレイジャー:えーっと、ホエール・ウォッチングに行って、プラネタリウムに行って、それからロズの助力でマイクロソフトの見学に行くんだ。フレディのたっての頼みでね。
ナイルズ:「今年の父親大賞」を狙ってるな。
フレイジャー:ああ、でもわかってくれるだろ。あの子に会いたいだけ会えるわけじゃないんだ。この旅行の思い出を次回まで残さなきゃいけない。完璧な父親になろうとしてるからと言って責められる?
マーティンとフレディがエディを連れて入って来る。
フレディ:やあ、パパ。
フレイジャー:おお、おかえり、フレディ。
フレディ:パパ、おじいちゃんが警棒だけで4人の銀行強盗をどうやって捕まえたかって話、してくれたことあった?
フレイジャー:いや。パパが聞いた話は、2人の銀行強盗を、リボルバーと、相棒と、S.W.A.T.チームだけで捕まえたってのだったな。
マーティン:奴らは後で着いたんだよ!
フレディ:こんにちは、ナイルズおじちゃん。
ナイルズ:こんにちは、フレドリック。おや、大きくなったんじゃないか。
フレディ:前回会ったときと全く同じだよ。
ナイルズ:育ち盛りの男の子だから、きっとママの手料理のおかげだね!
フレディ:マイクロソフトには今日行く?
フレイジャー:そうだな、フレディ、ラジオ局に寄ろう、パパの職場を見せてやるよ。きっと面白いよ?
フレディ:そうだね。マイクロソフトにはいつ行く?
フレイジャー:そうだな…、土曜日。
フレディ:すごい。
ダフネが自分の部屋から登場。
ダフネ:あら、おはようございます、ドクター・クレイン。
ナイルズ:おはよう、ダフネ。
フレディ:[うっとりして]ハーイ、ダフネ。
ダフネ:こんにちは、フレドリック。
マーティン:フレディ、お前のパパに今日公園でエディと一緒に見たものの話をしてやれよ。
フレディ:[うっとりして]ハーイ、ダフネ。
ダフネ:フレドリックは私のボーイフレンドなんです。
ナイルズ:[やきもちを笑いでごまかして]フーン、そうなんだ?
フレディ:ダフネにプレゼントがあるの、ここで待ってて。
フレディ退場。
マーティン:かわいいな、奴は君にぞっこんだよ。
フレイジャー:そうだね、夕べの彼を見せたかったよ。彼は一晩中ダフネの膝枕でテレビを見てたんだ。
ナイルズ:[やきもちを少し笑ってごまかして]そうなんだ?
ダフネ:それで今朝は、私の部屋の扉を小さくノックする音が聞こえて、それがフレドリックだったんですけど、私のベッドに入ってもいいか聞くんです。
ナイルズ:[やきもちを焼いて]そうなんだ?
フレディが絵を持って登場。
フレディ:これ、プレゼント。
ダフネ:まあ、素敵じゃない? 見て下さい、これがフレドリックでしょ、そしてこっちが私。私たち、何をしてるの?
フレディ:結婚してるんだ。
ナイルズ:[意地悪げに]そうなんだ?![テーブルに写真を放り投げる]
ダフネ:いらっしゃい、フレドリック。この絵を冷蔵庫に貼りましょ。
フレディ:いいよ。
フレディとダフネはキッチンへ去る。
ナイルズ:フレイジャー、小さい子が、絶対に手に入らない女性に執着するのが健全だって本当に思う?!
フレイジャー:ナイルズ、彼にやきもちを焼くほど身を落としちゃった?
ナイルズ:僕はやきもちなんか焼いてないよ、ただちょっと、えーっと、…多分羨ましいんだな。
マーティン:ばかばかしい! 何が羨ましい?
ダフネ:[音声のみ]捕まって!
嬉しそうなフレディをおんぶさせたダフネが部屋を走り回る。
フレディ:ヒャッホー!
ナイルズが怒りを込めて見つめる。
溶暗/場面転換

ゲティスバーグ演説をしたのは誰?


第3場-ラジオ局


フレドリックがフレイジャーと共に登場。
フレイジャー:そしてここが、今言ったことが全て行なわれるブース。
フレディ:大したもんだ!
フレイジャー:これがトークバック・ボタン、ロズと話したいときのためのもの、それからこっちがコフ・ボタン、マイクをミュートしたいときのためのもの。あ、それからこっちのボタンは特別のボタンなんだ。厄介な電話の相手をやっつけるために電話から殺人光線を出すボタンなんだぞ。
フレディ:だといいよね。
フレイジャー:その通り。
ブルドッグとロズが登場。ロズは松葉杖をついている。フレディは制御盤を向いているので二人は入ってきたときにはフレデリックに気づいていない。
フレイジャー:うーん、ロズ、今日は何があったのかな?
ロズ:それがね、私たち、夕べ祝勝会に行ったのよ。でマルガリータを数杯飲んだの。誰かがコンガ・ラインを踊り始めたんだけど、私は加わるつもりなかったの、そしたらショートのゲイリーがラインの最後について、彼がまた両手で掴みたくなるようなお尻をしてて…[フレイジャーはフレドリックをロズの方に向ける]そして、フレディ、シアトルから大歓迎ハグよ!
フレディ:[彼女をハグした後に]ナイス・プレイだね、ロズ。
ロズ:ありがと。
フレイジャー:フレディ、ブルドッグには会ったことなかったよね。
ブルドッグ:よう、坊主。
フレディ:何でブルドッグって呼ばれてるの?
ブルドッグ:えーっと、みんないつもそう呼ぶんだよな。
フレディ:でも何で?
ブルドッグ:さあ、何でかな…
フレイジャー:まあいいさ、ブルドッグ、えーっと、ロズと僕は番組の準備を…
ブルドッグ:[遮って]いやいやちょっと待てよ、これは大事なことだ。何でみんな俺をブルドッグって呼ぶんだ? 理由があるはずだよ。[女性が入ってきて書類を取る。ブルドッグは女性に向かってワンと吠えたので女性は逃げ出る]気が変になりそうだ!
ロズ:それで土曜日の試合では誰を私の代わりにするのよ、9人目がいないと没収試合になっちゃう。
ブルドッグ:そうだな…。ミンディ・ガスリーはどう?
ロズ:妊娠8ヶ月よ。
ブルドッグ:[心配げに数えて]7月、8月、9月、10月、11月、12月、…[ホッとして微笑む]
ロズ:何れにせよ誰か他の人を探したほうがいいわ、そうだ、悪いニュースといえば、フレイジャー、やっとスコット・ブランクマンから電話が来たわよ…
フレイジャー:ああ、ロズ…、フレディ、ちょっとブルドッグとおしゃべりしてて。ロズと話があるんだ。
フレディ:わかった。
ブルドッグ:ほい来た。
フレイジャーとロズはロズのブースに入って話す。
ブルドッグ:よお、ヘイヘイ、ちょっと待ってくれれば、俺のカートを持ってきてやるよ。ゴングを鳴らせるぜ。
フレディ:なぜ?
ブルドッグ:うるさい音するだろ、俺は番組でうるさい音をたくさん立てるのさ。
フレディ:なぜ?
ブルドッグ:さあな。おい、頭痛がしてきたぞ。
フレディ:ソフトボールの選手が必要なら、うちのパパを選手にしたら?
ブルドッグ:そうだな。[吹き出して]
フレディ:パパじゃダメ?
ブルドッグ:[気づいて芝居をする]いやいや、パパはすごいよ、最高だね。出てくれればいいけど確かパパは土曜日忙しいんだよ。
フレディ:僕をマイクロソフトに連れてってくれるから。
ブルドッグ:そ、そうなんだ。いやー、パパが出てくれれば絶対に勝つんだけどなー。
その間、ロズとフレイジャーは話している。
ロズ:残念だけど、フレイジャー、私にできるのはそこまで。スコットは、私と別れたすぐ後にマイクロソフトを辞めたの。
フレイジャー:フレドリックに話しづらいな。すごくガッカリするよ。
ロズ:そうね、神学校の見学がしたければ今ならコネがあるわよ。
その間、フレディはブルドッグにクイズを出している。
ブルドッグ:わかんねー、降参。
フレディ:アブラハム・リンカーンだよ! どこの学校に行ったの?!
フレイジャーが入ってくる。
フレイジャー:フレドリック。
フレディ:パパ、もう僕、マイクロソフトには行きたくない。
フレイジャー:行きたくない?
ブルドッグ:何言うんだよ、行きたいよな。ちょっと待って待って。よぉ、マイクロソフトで一日過ごしたくないなんてどんな男の子だ?
フレイジャー:どいてて。[]フレディ…フレドリック、今はお前の休暇なんだ、お前が主人公だ。お前の思い通りにしなさい。
フレディ:やった、僕、パパがソフトボールの試合に出るのを見たい。
フレイジャー:何だって?!
フレディ:ロズの代わりに出ればいいよ。
フレイジャー:えーっと…ソフトボールをやりたいのは山々だが、ブルドッグがうんと言わないよ。
フレディ:いいって。ブルドッグはパパがベストだって言った。でしょ?
ブルドッグ:[歯噛みしながら]言ったね。
フレイジャー:それはありがとう、ブルドッグ。
フレディ:じゃ、試合出るよね?
フレイジャー:うーん、どうやったら断れるかな。
フレディ:やった、ダフネに言うのが待ちきれないよ。
フレイジャー:そうだな、そうだ、ダフネと言えば、ダフネを待ってる間、外で自動販売機から自分でキャンディバーを買っておいで。
フレディ:ママはキャンディはエナメル質を溶かすって言うよ。
フレイジャー:わかった、じゃ口の横っちょでなめて乳歯を溶かしちまえ。
フレドリックは出て行く。
フレイジャー:ブルドッグ、何てことしてくれたんだ、フレディに僕がソフトボールのいい選手だって言うなんて?
ブルドッグ:よかれと思って言ったんだよ。俺があんたをとんでもない下手くそって言ってほしかったか?
フレイジャー:いや。
ブルドッグ:な、子供の頃自分の親父が思ったほどすごくないって気づくのがどんなに辛いか俺はわかってるんだよ。俺がフレドリックくらいの年だった頃、家に帰ったら、お袋は出かけてて親父が別の女と一緒にいたんだよ。
フレイジャー:ああ、ブルドッグ、すまなかった。
ブルドッグ:違うんだ、待てよ、まだ悪い部分は言ってない! その女はブスだった、センセイよ。つまり二目と見られないくらいのブスだったんだ。俺の親父がだよ。で親父の頭に浮かんだ一番いい言い訳が、「おい、火を掻き立てるとき暖炉のマントルピースは見ないだろ![]へっ、引っかかった![笑って退場]

第1幕了


第2幕


第1場-カフェ・ナヴォーサ


ナイルズとフレイジャーが窓側の席で近況を話している。
フレイジャー:父さんが僕らにリトル・リーグを受けさせようとしていた頃のことをずっと考えてるんだ。人生で初めて打席に向かったときの屈辱は忘れられないよ。相手チームが全員で「みんな、内野に寄れ。クレインの番だぞ!」って叫ぶんだ。
ナイルズ:うん、でもみんな兄さんが最初のスイングをしたらすぐ外野に散ったじゃない。
フレイジャー:バットが手から離れて飛んでったからな!
ナイルズ:気にしすぎだよ、同僚たちだって兄さんが素晴らしいプレイをするなんて期待しちゃいないさ。
フレイジャー:いや、同僚たちの前でまずいプレイをするのなら耐えられるさ、気にしてるのはフレドリックのことだよ。彼はまだ父親が何でもできるって思ってる年なんだ。
ナイルズ:どんな子供でもいつかは父親がスーパーヒーローじゃないって気づかなきゃいけないんだ。
フレイジャー:わかってる。
ナイルズ:健全な発達過程の一部だよ。
フレイジャー:わかってるって、いつか俺が完璧じゃないってわかるさ、それが、あまり屈辱的な場面じゃないといいと思ってるだけだよ。家族の結婚式でアップテンポのダンスを踊るとかさ。
ナイルズ:それがそんなに屈辱的じゃないと思うんだ?
フレイジャー:う…
フレイジャーが何か言おうとしていると、ダフネがフレディと登場。
ダフネ:こんにちは、どなたかと思ったら。
フレイジャー:やあ、僕が仕事してる間、お二人は楽しんだかい?
フレディ:[ダフネにうっとりして]うん。
ダフネ:そうよね、遊園地に行って、楽しかったわね。ただ、観覧車はちょっと怖かったかな。フレディは乗ってる間じゅう、必死で私にしがみついてました。
ナイルズ:[多分羨ましい]そうなんだ?
フレディ:ダフネの髪の毛はイチゴみたいな匂いがしたよ。
ナイルズ:桃の花とラベンダーとバニラの匂いだよ!
ダフネは当惑している。
ナイルズ:[取り繕って]少なくともここからはね。[ダフネは笑う]
フレディ:ナイルズおじちゃん、パパが父さんソフトボールの試合に出るの、見に来る? パパはチームで一番なんだよ。
ナイルズ:ああ、もちろん行くよ、フレディ。君とダフネの間に座るからね。
ダフネ:[気づかず]さ、フレドリック、ホットチョコレートをもらいに行きましょう。
フレディ:うん。[二人はカウンターへ行く]
フレイジャー:問題がわかった?
ナイルズ:[カウンターのフレディを見ながら]はっきりとね!
フレイジャー:違うよ、そりゃ*お前の*問題。厄介なのは僕が土曜日にプレイするってフレドリックと約束しちゃったことなんだ。もう選択肢は一つしかない気がする。
ナイルズ:怪我したふりしたら?
フレイジャー:ダメだよ、絶対。僕はソフトボールのやり方を教わるよ。
ナイルズ:二日間で?
フレイジャー:大学時代、ステュー・オバーフェルドが病気になったとき、僕はたった一日半でマキューシオのセリフを覚えたんだ。素晴らしかったんだぜ。決闘の場面で戦ってると、観客が座席から落っこちそうに身を乗り出してさ。
ナイルズ:ああ、それで剣が手から離れて飛んでってみんな座席の下に隠れちゃったよね!
溶暗/場面転換

反ナチュラル


第2場-ソフトボール練習場


マーティンとフレイジャーがソフトボール練習場に入ってくる。フレイジャーはソフトボールのユニフォームを着ている。
フレイジャー:いやぁ、父さん、助けてくれてありがたいよ。
マーティン:言うな、お前をしっかり仕上げてやるからな!
フレイジャー:今までがっかりさせ通しだっただろうからね。子供の頃この類のことにさっぱり関心が持てなかったから。
マーティン:まあ、理解はしてたよ。
フレイジャー:ちょっとしたコンプレックスが大きくなってってたかもね。子供の頃さ、玄関のベルが鳴るだろ、で迎えに出たら近所の子供達が野球のグローブとバットを持って、試合に出てくれる子を探してるんだ。それで彼らが言うんだよ、「ね、君のお父さん来て出てくれるかな?」
マーティン:[笑って]まあ気にするなって。結局ここまで来られてうれしいよ。
フレイジャー:[笑って]『欲望という名の電車』でスタンリーがブランチ・デュボアに言い寄ってるみたいに聞こえるリスクを冒して言えば、「俺たち最初からこうなるはずだったんだ。」
マーティン:お前がめちゃめちゃにすることはわかってた!
フレイジャー:悪い。
マーティン:いいから、さあ、ヘルメットを被れ。
フレイジャー:[被ろうとする]父さん、ありゃ、何かきついよ。
マーティン:ああ、みたいだな。こうすりゃ痛くないさ。
マーティンはヘルメットを叩いて押し込むと、フレイジャーが痛がって叫ぶ。
マーティン:さあ、よし。バットを取って、わしが言った通りに足を置いて。マシンのスイッチを入れるぞ。ボールが全部同じ高さになってるからフォームやタイミングを研究するのにいいんだ、わかるな? よし、じゃあ行こう。
マーティンは外側に立ち、お金を入れて最初のボールを飛び出させる。
ボールはフレイジャーを通過する。フレイジャーはボールを打つのではなくボールから逃げる。

フレイジャー:何それ、ピッチング・マシンなの、それとも粒子加速器?!
マーティン:わかったわかった、じゃあ弱めの設定に下げるよ。[そうする]よし、じゃあ、これだけ覚えとけ、左の肘を内側に、右の肘を上に、両膝は内側に、そして全体重を足の指の付け根にかけるんだ、いいか、じゃあ打席に入って。
そのときまでにフレイジャーは言われた通りにするが、かなり滑稽に見える。
マーティン:行くぞ。
ボールが発射されて真っ直ぐフレイジャーを通り過ぎる。
マーティン:そうだ、それからバットを振れ。
フレイジャー:父さん、もうちょっと遅くできない?
マーティン:わかったわかった、でもよその父親たちがここに戻って来たら、ちびっ子設定はおしまいだぞ。よし、いいな、腰からだ。正確に、力を抜いて、ボールをやっつけるんじゃなくてただうまく当てるんだ、よし、いいな?
フレイジャー:いい。
ボールが発射される。フレイジャーはスイングするがかすりもしない。
フレイジャーはバットを振り切って倒れると同時にバットを練習場の向こう側に飛ばす。数人の男たちが見て笑っている。

フレイジャー:お前ら何見てるんだ? 父さん、あいつら僕を見てるよ!
マーティン:[男たちに]あっち行け! さあ。失せろ!
男たちは去り、フレイジャーは体勢をを立て直す。
溶暗

15%… いや特別サービスの場合は20%


第3場-ソフトボール練習場


その後、フレイジャーはまだ打とうとしている。またボールがヒュッと飛んできて彼を通り過ぎ、彼は打とうとするが、今までと同じように倒れこんでバットを飛ばす。
フレイジャー:あれ聞いた? ねえ聞いた? 今回は触ったよ、かすったよ!
マーティン:いや、わしの膝関節が鳴った音だ! だが随分よくなってきた。6球続けて振り切った後に腎臓を打たなかったぞ。
フレイジャー:ひどい話じゃないか? 望みないよ!
マーティン:[中に入ってくる]まあまあ。バットを変えてみようか?
フレイジャー:ああ、父さん頼むよ、ソファのクッションを持ってるんじゃあのボールは打てないね!
マーティン:よし、わかった、ソフトボールはお前には向いてないんだ。大した話じゃないさ、フレディもわかってくれるよ。
フレイジャー:多分ね。時が経てば彼も単に…イタッ、イタッ…。
フレイジャーはヘルメットを脱ごうとするが、きつくて痛い。
フレイジャー:…どんな男の子も父親が完璧じゃないって初めて気がついたときのことを忘れないもんだよ。この旅行で持ち帰ってほしいものではないけれど。何れにせよ、手伝ってくれてありがとう。
マーティン:言うな。それで、フレイジャー、えーっと、[笑う]お前はどうだったんだ?
フレイジャー:え?
マーティン:つまりさ、わしが完璧じゃないって初めて気づいたのはいつだった?
フレイジャー:わかんない。
マーティン:だって子供は初めてのときのことを絶対忘れないって言ったろ。
フレイジャー:うーん…多分一回じゃなかったな。
マーティン:それじゃ、何度もか?
フレイジャー:いや、今この話をするのはきまりが悪いよ。
マーティン:なぜ? 気を悪くしたりしないよ、興味があるだけさ。
フレイジャー:わかったわかった。3年生のとき、僕と、数学クラブの男子を何人かをピザ屋に連れてってくれただろ。勘定のとき、父さんがチップを暗算できなかったんだよ。
マーティン:わしが暗算をできなかったのがそんなにがっかりさせたのか?!
フレイジャー:当時はってことだよ!
マーティン:そうか、今日お前が何発打ったか暗算できるかな? 考えさせてくれ、えーっと…あっ、ゼロだ!
フレイジャー:いい! いいったら、父さん、ムキにならないで! 僕は8つだったんだよ。
マーティン:8、ああ、あの雪だるまみたいな形のヤツだな?!
フレイジャー:この話、しなきゃよかったよ、もう。
マーティン:いいさ。
フレイジャー:多分、僕は土曜日、試合の前にフレドリックを座らせて、歯を食いしばって真実を告げることになる。僕が待ち望む会話ではないけれど、自分の父親が土曜日、満塁ホームランを打つことはないってことをわからせなきゃいけない。[]打つかな? 待って、満塁ホームランってのは…
マーティン:ないね。
フレイジャー:ま、とにかく、一つの慰めは、ピザの一件でがっかりしたにせよ、今ここで、何年も経って、一緒にバッティング・センターのネットの中にいるってことだよ。
マーティン:そうだな。さ、ビールを引っ掛けに行くか。
フレイジャー:ありがとう、父さん。
フレイジャーとマーティンはネットを去るが、マーティンがコインを数える。
マーティン:で、えーっと、このピカピカしてるのが何個いるんだっけ…
フレイジャー:もう、うるさい!
フレイジャーとマーティンは退場。

第4場-フレイジャーのアパート


土曜日、玄関のベルが鳴る。フレイジャーが扉に出てナイルズを迎える。
フレイジャーはKACL「クレイン」ソフトボールシャツを着ている。ナイルズはいつものアルマーニのいでたち。

フレイジャー:やあ、ナイルズ。
ナイルズ:フレイジャー、本物のスポーツ馬鹿に見えるよ。僕の昼食代を渡したくなっちゃう。
フレイジャー:それがお前の正しい野球観戦スタイルなの?
ナイルズ:どうやら見損なってるみたいだね、僕のネクタイの繊細なダイヤモンド柄を!
ナイルズは指差す。
ナイルズ:で、フレドリックとの会談の首尾は?
フレイジャー:それが、まだそこまで行けてないんだ。父親としては息子の前で馬鹿に見えなくてすむんならどんなことでもするだろ。
マーティンが滑稽なバイキング・ヘルメットを被って登場。
マーティン:ソーガソンの奥さんが捨てたものを見てくれよ。マクギンティの店のやつらは気に入るぞ!
あっけにとられた息子たちを残してマーティンは退場。
フレイジャー:えー、とにかく…
フレドリックがダフネの部屋の方角から走ってくる。
フレイジャー:フレドリック、家の中で走ることについてパパは何て言った?
フレディ:家の中を走っちゃいけないって言った[訳注:フレデリックは文法的に誤った表現をしている]
フレイジャー:フレドリック、分離不定詞についてパパは何て言った?
ナイルズ:フレイジャー、子どもは子どもらしくさせておきなよ。
ダフネがバスローブ姿で登場。
ダフネ:逃げちゃダメ! 見ましたよ! 息子さんがシャワーしていた私めがけて入ってきたんです!
フレイジャー:フレドリック!
フレディ:父さん、僕が見たのはただ…
フレイジャー:お前にはがっかりだ、いたずらっ子め!
ナイルズ:最後まで話させて!
フレイジャーはナイルズを一瞥する。
フレディ:僕が見たのはたくさんの蒸気だけだよ。
フレイジャーはナイルズに頷く。
フレディ:ごめんなさい、ダフネ、あなたがシャワーしていたの、知らなかったんだよ。僕のこと嫌いになったよね。
ダフネ:嫌いになったりしませんよ。ただ、部屋に入る前にノックするって約束してちょうだい、いいわね?
フレディは頷き、ダフネは退場。
フレディ:ごめんなさい、パパ。
フレイジャー:いいんだよ、息子。
フレディ:それで、試合にはいつ行く?
フレイジャー:えーっと、ちょっと、…まず二人で話さなきゃいけない。えーっと、ナイルズおじさん、二人きりにしてもらえるかな?
ナイルズ:もちろん。試合のためにリフレッシュしてくるよ。[声をひそめてフレディに]他の人は騙せても僕は騙されないぞ! 君の考えはお見通しだよ、小僧っ子![出て行く]
フレイジャーはとんでもなくうんざりしてため息をつく。
フレイジャー:さ、フレディ。ここに来てお座り。[フレデリックは従う]よし、今日、お前は僕がソフトボールをやっているのを見ることになる。でも僕はあんまり上手にできないんだ。いいソフトボール選手じゃないの。
フレディ:でもブルドッグはパパが最高だって言ったよ。
フレイジャー:ああ、知ってる、ブルドッグはよかれと思って嘘をついたんだよ。実際は、パパは最低なの。ボールを取れないし、投げられないし、打てないの。
フレディ:[十分理解して]あれま。
フレイジャー:で、自分の父親が完璧でないことを初めて聞くのはさぞかしがっかりだとは思う、でも…
フレディ:初めてじゃないよ。パパは僕のコンピュータを直せなかった。金星が北極星だと思ってた。それに僕、パパが走るとこ見た!
フレイジャー:何で今まで何にも言わなかったの?
フレディ:言うとプライドを傷つけるかもって思ったから!
フレイジャー:ああ、実際は、フレドリック、そういうのはホントは平気なんだよ。そういうことにお前ががっかりしてもいいんだってことを、お前に知ってもらいたいだけなんだ。だってさ、僕がお前の年齢の頃、おじいちゃんが暗算できないことを知って本当にがっかりしたんだ。後になれば、もちろん、そんなことはそれほど重要じゃないってわかったよ、だっておじいちゃんは他にたくさんのことをすごく上手にできるんだからね。
マーティン登場。
フレディ:[驚いて]おじいちゃん暗算できないの?!
フレイジャー:いや、それを言いたいわけじゃなくて…。
マーティン:何のためにわざわざそんなことを言うんだ?!
フレイジャー:例を出して説明してたんだ!
フレディ:全然できないってこと?!
マーティン:えーっと、ああ、ホントはできるよ、フレディ。
フレディ:できると思ってた。7掛ける15は? できるよね、おじいちゃん。
フレドリックはマーティンを見る。マーティンはフレイジャーを見る。フレイジャーは空に「105」と書いて見せている。
マーティン:えーっと… 115?
フレディ:ああ、おじいちゃん!
マーティン:ありがとよ、フレイジャー!
フレイジャー:何てこったい、努力はしたんだ。
フレドリックはソファに倒れ込む。そこにナイルズとダフネが登場。
ダフネ:試合に行く用意はできました?
フレディ:[むかっ腹を立てて]まあね。
ダフネ:あんまり嬉しそうじゃないわね。
フレディ:パパはソフトボールが下手くそで、おじいちゃんは暗算ができないんだって。
ダフネ:そんなことはどうでもいいことなんですよ。どうやったらご機嫌が治るかしら?
フレディ:抱っこかな?
ダフネ:さ、いらっしゃい。
ダフネはフレディを抱き上げてぎゅっと抱きしめてやる。ダフネの肩越しで、悲しそうだった表情が、やがてずるそうな微笑に変わっていく。ナイルズは光景を見てニヤリと返し、叔父と甥は同じ考えを共有する。

第2幕了


エンドロール

KACLで。フレイジャーがブースに入るとロズがいて互いに対して怒っている。明らかに悪いのはフレイジャーだが、ロズがそんなに男の尻ばかり追いかけていなければ自分はそんなことをしなくてもよかったと考えている。しかし、フレイジャーは、スコット・ブランクマンの件で彼女に埋め合わせをしなければならないことを思い出す。
彼はボビー・シャーマンのLPを鞄から取り出す。ロズは微笑んで受け入れる。フレイジャーがボビー・シャーマンTシャツを取り出す。ロズはお返しにフレイジャーにキスして抱きしめる。そしてフレイジャーは彼女にちょっと待つように言って出て行く。
戻ってきたとき、彼は本物の、生身のボビー・シャーマンを連れてくる。フレイジャーは彼をロズと一緒に部屋に閉じ込める。ロズは夢中になっているがボビーは怯えている様子。ロズは彼の手を掴み、ぐっと引き寄せてキスする。