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[4.14] To Kill A Talking Bird

[4.14] おしゃべり鳥を殺すには[引用 "To Kill a Mockingbird"(アラバマ物語)]


第1幕


第1場-アパート


マーティンは自分の椅子に座って新聞を読んでおり、ダフネはテーブルに座って手紙を書いている。ダフネが何かに気づく。
ダフネ:あら、椅子の下の方にまた大きい破れができてますよ。
マーティン:[見て]どこ? [場所がわかる]わっ! わしの張り替えセットを取ってくれんか? [ダフネがマーティンに太巻きのガムテープを投げる]ありがと。
彼はひざまずいて破れを直す。フレイジャーが一張羅のスーツを着て廊下から出てくる。
ダフネ:あら、ドクター・クレイン、オシャレじゃありませんか。
フレイジャー:気分的にはオシャレじゃないんだよ。ロズにまたブラインドデートの予定を入れられちゃってさ。
ダフネ:幸運なお相手はどなたですか?
フレイジャー:ロズのエアロビクス教室の友達。ま、そんなに悪い話じゃないかもね。32歳で、素晴らしいナイスボディで、どうやら僕のことを放送業界に舞い降りた神の賜物だと思ってるらしいよ。
マーティン:じゃ、お前と少なくとも一つ共通点があるな。
フレイジャーはしかめ面をして父親が椅子を直しているのを睨む。
フレイジャー:父さん、そのひどい代物で環境汚染するの、いつになったら辞めるつもり? [玄関のベル]おっと。そいつが死にたがってるの、わかんないかな? そうさせてやれば!
マーティン:[座り直す]わしは、お前がそれと同じことを言う夢ばかり見るんだ。わしが入院したが最後、お前は看護師に20ドル札をそっと渡すのさ。
フレイジャー:父さん、それは起こりっこないね。
マーティン:そりゃありがたい。
フレイジャー:僕は医者として延命判断権を持ってるから一銭も出す必要ないんだ。
扉に出てナイルズとガールを迎える。ガールはマリスに似た飼い犬。
ナイルズ:やあ、フレイジャー。僕たち、隣同士でペディキュアと海藻パックやってもらったんで、寄ろうと思ってさ。もちろんペディキュアしたのは…
マーティン:そこでやめてくれ! わしが自慢したくなっちまうようなことを最後まで言うには及ばんよ。
ナイルズ:いい知らせがあるんだ。ついさっき、シアトル最高のビルの一つにアパートを賃貸契約したんだよ。
フレイジャー:まさか…?
ナイルズ:そのまさか。来週付けで、僕は…[契約書を取り出して]モンタナの住人さ。
フレイジャー:ナイルズ、何であんな旧態依然のビルに住みたがるかな? 僕が申し込んだときはあいつら僕を下層民みたいにあしらったぜ。
ナイルズ:自分の質問に自分で答えてるんなら、僕は必要? 一番いい点は、もう住所を書かなくていいってこと。これから「ドクター・ナイルズ・クレイン、モンタナ」って書くだけでいいんだ。
ダフネ:素敵なビルですよね。一度だけ行ったことあります、求職で。
ナイルズ:君を雇うチャンスを断わる人間がいるなんて信じられないな。
ダフネ:そうだと嬉しいんですが。返事はまだなんです。では、おやすみなさい!
寝室に去る。残されたクレイン親子は動揺している。
マーティン:おい、フレイジャー、お前…
フレイジャー:落ち着いて、父さん。もっと休みがほしいって彼女なりに遠回しに言ってるだけさ。
マーティン:そうじゃなかったら?
フレイジャー:その人たちだって僕に照会しなきゃいけないだろ。いずれにせよ彼女はどこにも行くことにはならないよ。
ナイルズが突然、ガールに注目。ガールはじっとしている。
ナイルズ:すごいよね、父さん。
マーティン:何が?
ナイルズ:ガールが父さんに夢中になるなり方がさ。完全に催眠状態だ。
マーティン:そんなこたないね。
ナイルズ:そうだよ。ツンとしたふりしてるんだ。[ガールをマーティンの方に押しやる]おじいちゃんの所に行け。ガールって温かくって抱き締めたくならない? [マーティンは渋々ガールを膝に乗せる]おー、二人を引き裂くのは大変だ!
フレイジャー:おっと危ない。モンタナはペット不可なんだな?
ナイルズ:まるで反対さ、ペット歓迎だよ。ダメなのは猫と犬だけ。
マーティン:そりゃついてたな、こいつが一体何なのか、わしにはわからんからな!
フレイジャー:うちには来させないよ!
ナイルズ:頼むよ、少なくともガールがここにいれば会いに来られるもの。知らない人には渡せないよ。[声をひそめて]ガールは僕を崇拝してるんだ。
フレイジャー:頼むよ、こいつはお前にこれっぽっちも愛情なんかないことにいい加減気づけ。[ナイルズは戸惑っている様子]お前はガールがそうだって欺いているだけなんだ、それはガールがマリスの身代わり犬だからだ!
ナイルズ:そんな馬鹿げた心理分析のたわごとを聞くのは生まれて初めてだね。
フレイジャー:彼女は神経質で、触っても冷たくて、お前を無視してる。いいか、彼女を立たせて、5キロ足して、シャネルのスーツ着せたら何になる?
ナイルズ:悪いけど阿呆らしいね。
フレイジャー:そうか? デュシャンの結婚式でマリスが被ってた小さい縁なし帽覚えてる?
ナイルズ:覚えてるさ。
フレイジャーは小鉢を取ってガールの頭にちょっと傾げて当ててみせる。マーティンは同意して頷き、ナイルズはよろめいて長椅子に倒れ込む。
溶暗

スティンキーって呼んで

第2場-KACL


翌日、フレイジャーは自分のブースに入る。ロズが紙挟みを持って待っている。
ロズ:こんにちは、フレイジャー。夕べリタとはどうだった?
フレイジャー:あんまり気に入らなかったみたいだよ。
ロズ:もう、いつもだけど自分に厳しいわよ。
フレイジャー:そうは言うけどさ。食前酒が終わったら、彼女、翌朝すごく早くに会議があったことを急に思い出したんだ。夕食の後のジャズクラブは省略しましょ、ってこと。
ロズ:誰でも会議くらいあるわよ。
フレイジャー:まあね。で、ウェイターが、あと30分かかりますがって言いながらデザートのスフレを勧めにきた。そしたら彼女、「やだー、ありえない!」って。
ロズ:ダイエット中だったのかもよ。
フレイジャー:彼女を家まで送った後に、彼女が僕の車にスエードの上着を忘れてったことに気づいたんだ。で電話して、届けてあげるって言ったんだけど、彼女の言った通りに言えばさ、「それ、あげる」って。
ロズ:彼女に何したの?
フレイジャー:何もしてないよ! ねえロズ、もう十分だよ。この半年、男が女性に出会うためにやれることはぜ・ん・ぶやった。出会い系バー、ブラインドデート、美術館での連続講義。しまいにゃスーパーで何時間も粘って農産物コーナーで手も足も出なくて困ってるふりしたり! そういうこと。市場から撤退するよ。フレイジャー・クレインは最後のメロンを叩いてしまった。
ロズ:でもねえ、フレイジャー…
フレイジャー:ロズ、ロズ、いいよ。言おうとしていることはわかってる。馬に乗り直せ、今諦めるには僕は素晴らしすぎる相手である。
ロズ:いいえ、諦めた方がいいって思ったの。
フレイジャー:[びっくりして]何だって? 本当は諦めたくないよ、同情してもらいたくて言っただけなのに。
ロズ:もう、ままあることよ。本当に悪運の時期に入っちゃったら、必死になるわよね。女性はその臭いをかぎつけるのよ。
フレイジャー:臭い?
ロズ:そっ。男性が適齢期過ぎ始めたら、相手を褒めすぎたり、相手のジョークに何でもかんでも笑いすぎたり—そしたら回れ右して逃げ出したくもなるわよ!
フレイジャー:僕はそんなことしてない!
ロズ:もうあなたったら、目をさまして自分の臭いを…よくかいでごらんなさいよ! 空気を少し入れ替えるだけでいいのよ。それから私の経験では、探すのをやめた途端、完璧な相手が膝の真上に落ちてくるわよ。
フレイジャー:ああロズ、熱風管の中で死んだリス扱いしてくれたことには感謝するけど、君は間違ってると思うよ。
社員のクリスティンがファイルを持って登場。
クリスティン:こんにちは、ロズ。
ロズ:こんにちは。
クリスティン:あなたが探してた写真、見つけたわ。こんにちは、ドクター・クレイン。
フレイジャー:こんにちは、今日は本当に素敵だね、クリスティン。クリスティン、だったよね?
クリスティン:免許証にはそう書いてあるわ。
フレイジャー:[大笑いする]バカウケ。[ロズとクリスティンは去る]ヤバい、僕、臭う I?
溶暗/場面転換

第3場-モンタナ


ナイルズは自分の新しいおしゃれなアパートをダフネとマーティンに案内し終わったところ。インテリアも家具もフレイジャーのものと同じくらい高価で趣味がいいが、様式はやや古い。三人は最後に、主室を見下ろす小さいバルコニーまでやってくる。
ナイルズ:…フィリピンのマホガニー材が嵌め込まれてるんだ。これで居間に戻ってミニツアーはおしまい。
ダフネ:すごくオシャレですね。[玄関のベル]
マーティン:ナイルズ、何で居間にベッドがあるんだ?
ナイルズ:ベッドじゃないよ、父さん。ご婦人が失神したときのためのアンティークの寝椅子さ。
ダフネ:あらまあ、当時は何用の家具でもあったんですね!
ナイルズは扉に出てフレイジャーを迎え入れる。
ナイルズ:ようこそお越し下さいました。
フレイジャー:なあ、ナイルズ、お前のこの結構なビルはお前が思っているほど上流向けじゃないぜ。ドアマンはすぐ入れてくれたよ。
ナイルズ:ああ、それは彼が兄さんを知っているからさ。
フレイジャー:僕の番組のファンってこと?
ナイルズ:いや、彼は兄さんのアパートに住んでるんだ。
マーティン:それでナイルズ、犬はどうした?
ナイルズ:すごくいい里親が見つかったんだ。
ダフネ:またお一人に慣れるのにそんなにかかりませんよ。
ナイルズ:いや、慣れなくてもいいの。来て、みんなに会わせたいのがいるんだ。一目惚れだったよ! 風変わりで、食事は一日置きでよくて、真っ白で、ほとんど青に見えるくらい! [キッチンに出る]
マーティン:うわ、ドキドキしてきた。前、マリスに紹介してくれるときに言ったことと同じだ!
一同がナイルズのキッチンに入ると、キバタンがナイルズの肩に止まっている。
ナイルズ:みなさん、ベイビーを紹介します。
ベイビー:大好き。
フレイジャー:鳥を買ったの?
ナイルズ:うん、あたりがどんなに静かになっちゃうかと考え出しちゃって、で彼女は可愛くて人懐っこいんだ。
ベイビー:大好き。
ナイルズ:ああ! いつもそう言うんだ。僕も大好きだよ、ベイビー。
ベイビー:大好き、おばあちゃん。
ナイルズ:まだ最後の飼い主からの移行中なんだ。
扉のブザーが鳴ると、ベイビーがギャーと鳴いてナイルズの肩に鉤爪を食い込ませる。
ナイルズ:うわっ! 肩から降りろ! 肩から降りろ! あの音嫌いなんだね、ベイビー? 餌場に行け。[行く]よし、いい子だ。失礼。
ナイルズはキッチンを出て扉に応対に行く。
ダフネ:私、鳥がどうやって本当に喋れるようになるのかいつも不思議なんです。
マーティン:[ベイビーの方に歩いて行く]喋れるんじゃないさ。ペットショップでいくつか言葉を繰り返し覚えさせてるだけで、その後は何も覚えないんだよ。
フレイジャー:でも面白いよね。
マーティン:まあそういうものなのさ。かわいいけどアホウ。
ベイビー:かわいいけどアホウ!
マーティンは驚いて姿勢を伸ばす。ベイビーはそれを真似る。マーティンが頷くと、ベイビーも同じようにする。彼はひょいひょいと上下に動き始める…
フレイジャー:ダフネ、二人きりにさせておいた方がよさそうだ。真の機知の戦いが起こりかけていることを感じる。
マーティンは続けている。フレイジャーが居間に入ると、ナイルズが郵便物を手にして扉を閉じている。
ナイルズ:このアパートで幸先のいいスタートを切っちまったよ。ご近所さんの一軒が間違って僕の郵便物を受け取った。この勘定書を見てよ、彼女、僕のことどう思うと思う?
フレイジャー:でもナイルズ、誰でも勘定書は受け取るぜ。
ナイルズ:モンタナじゃ違うんだよ。みんな秘書がいて勘定書は秘書の所に行くんだ。僕にも秘書がいるって思ってもらいたんだ。秘書はいるにはいたけど…みんなマリスの秘書だったから。
フレイジャー:ナイルズ、そんなことばかり言ってるとお前に秘書がいないことを気にしない人がいなくなるぞ。
ナイルズ:新しいアパートに引っ越したときにいい印象を与えるのがどれほど不可欠かってことだよ。それで僕は金曜日の夜に、選ばれた住人を数人だけ招いてディナーパーティーを開くことにしたんだ。すごくいい時間を過ごしてもらえば僕がここに入るのに問題なくなるだろ。
フレイジャー:僕も招待されてるのかな?
ナイルズ:うん、でも悪いけどパートナーは連れてこないで。僕がぎゅう詰めのテーブルをどれほど毛嫌いしてるか知ってるよね。
フレイジャー:オッケーだよ。デートサーキットからは離脱したんだ。ちょっと必死になりすぎてたから。
ナイルズ:グロリアがいとこだったかまたいとこだったか電話してきたときには僕もちょっと心配したよ。
マーティンがキッチンから頭だけ突き出す。
マーティン:ナイルズ、見に来い、鳥がピーナツバターを食べてるぞ! エディが食べるときより面白いぞ!
ナイルズ:父さん!
ナイルズが立ち上がると、扉のブザーがまた鳴る。
ナイルズ:フレイジャー、出てくれる? 秘書のふりして。
ナイルズがマーティンを止めに慌ててキッチンへ行っている間、フレイジャーは扉で女性を迎える。女性はステファニー・ギャレット。
ステファニー:あらごめんなさい、ドクター・クレインにお会いしたくて。郵便物がまだあったので。
フレイジャー:僕もドクター・クレインです。ナイルズの兄です。
ステファニー:まあ、ラジオに出てらっしゃるフレイジャー・クレインなのね? あなたの番組、大好きなんです。
フレイジャー:どうも。
ステファニー:あ、ステファニー・ギャレットです。
フレイジャー:[握手して]よろしくステファニー。
ステファニー:あの、信じてもらえないかもしれないけど、私、ハーバードの新入生だった頃、あなたが『ペンザンスの海賊』のオペラで海賊王を演じたのを見たんですよ。
フレイジャー:何てこった。
ステファニー:いえいえ、素晴らしかったわ。あんまりよかったから、翌晩は夫を連れてもう一度見に行きました。あ、当時はまだ夫じゃありませんでしたけど。えっと、ホントは今ももう夫じゃないんですけどね。
フレイジャー:そりゃよかった。いや、二回来てくれてよかったってことで、元夫のことじゃなくて。実は僕もなんです。いや元夫じゃなくて、元妻だけど。つまり女性ってことで…ここ暑くなってきてます?
ステファニー:え、ええちょっとね! [狼狽した笑い]とにかくお会いできて嬉しかったわ。
フレイジャー:待って、その、ナイルズが金曜日に、素敵なご近所さんを招いてちょっとしたパーティーを開くんです。[話が聞こえてナイルズが現われる]よかったらあなたも来ませんか?
ステファニー:ええ、来させてもらえると思うわ、ナイルズさんが空席をお持ちなら。
ナイルズ:[ごまかして]多いほど楽しいですよ!
ステファニー:楽しみにしてます。[去る]
フレイジャー:僕も。
彼女は去る。フレイジャーは興奮しながら扉を閉める。
フレイジャー:ロズは正しかった! 完璧な女性を探すのをやめた途端、僕の膝の上にその女性が落ちてきた!
ナイルズ:でも、その配置で居心地がいいといいけどね。金曜日の夜は彼女にはそこに座ってもらうよ!

第1幕了



第2幕


しっかりやろうぜ

第1場-モンタナ

アパートで、ナイルズはベイビーを肩に止まらせてテーブルを準備している。
ナイルズ:どうぞ召し上がれ、どうぞ召し上がれ。言ってごらん、ベイビー。どうぞ召し上がれ。
ベイビー:どうぞ召し上がれ。
ナイルズ:何て覚えの早いおチビさんなんだ。すごい鳥頭! もううちの父さんよりもたくさんフランス語を知ってるよ。
扉のブザーが鳴って、ベイビーがナイルズに爪を食い込ませる。
ナイルズ:イタッ! お前が玄関のベルに慣れてくれないとこわーいマニキュアをつけなきゃいけなくなるぞ。[また鳴ってまた食い込ませる]痛い! 行きます、行きます、もう鳴らさないで!
扉を開けてフレイジャーを迎える。
フレイジャー:こんばんは、ナイルズ。こう言った方がいいかな、「よお、野郎ども!」
ナイルズ:兄さんのジョークに付き合ってる暇はないよ、まだやっと座席カードを置いたところなんだ。
フレイジャー:[カードを取り上げて]座席カード、そりゃ高尚な。ピーター・スーテンデックって誰?
ナイルズ:兄さんの右隣ね。彼はアムステルダム出身の投資家で、どうもビル・ゲイツの資産の多くを運用しているみたい。だからオランダとかマイクロソフトとかをバカにすること言っちゃダメだよ。
フレイジャー:チェッ。ウィンドウズ 95をインストールしようとしてるオランダ人のオープニング・ジョークがあるのにな。[見て]ステファニーはそっちか、僕の隣の席じゃないんだ。
ナイルズ:そうなんだ、ピーターは彼女を連れてくるからそっちの方がいいと思って…[フレイジャーが置き直したのに気づく]何やってんの?
フレイジャー:ステファニーを僕の隣にしたの!
ナイルズ:それで僕の席順を全部台無しにするわけ?
フレイジャー:ナイルズ、わかってるだろ、僕はステファニーみたいな女性を見つけるのに多大な時間を費やしてきたんだ。
ナイルズ:ああ。
フレイジャー:そうだ。招いた人たちに印象を残したいなら室内の雰囲気をもうちょっとだけよくしなきゃ。僕が暖炉に火を入れてやるよ、照明を少し落としてくれ。
ナイルズ:[照明の所に走る]そりゃいい考えだ。ところで暖炉には気をつけて。ちょっとだけ…。
遅すぎた。フレイジャーのせいで火が突然燃え立ち、ベイビーがナイルズの頭に飛び乗って爪を食い込ませる。火はすぐに収まったが、ベイビーは離れない。
ナイルズ:ちょっとだけ掴みが強くなってない、ベイビー? 止まり木に行け。止まり木に行け。[ベイビーは動かない]フレイジャー、鳥が僕の頭の皮を掴んで離さないよ。[ベイビーを動かそうとするがどうしても動こうとしない]取れないよ。
フレイジャー:ナイルズ、先週の日曜のブランチのときにかぶってたおしゃれなベレー帽を脱げたくらいなら何でも取れるはずなのに。
ナイルズとフレイジャーは鳥を離そうとする。フレイジャーは強く引っ張り始めたが、ナイルズは痛がるばかり。
ナイルズ:やめて、やめて。
フレイジャー:どかないよ、しがみついて。
ナイルズ:ライターを取って。僕の頭の近くに火を持ってきて。火でベイビーがびっくりして離れるかも。やってみて。
フレイジャーは試すが、ベイビーはさらに深く爪を食い込ませるだけ。
ナイルズ:やめて、やめて。
フレイジャー:そうだ、電話だ。
彼が電話をナイルズに渡すと、ナイルズは電話を頭の横に持ってきてアンテナに鳥を止まらせようとする。
ナイルズ:こっち来い、こっち来い。
フレイジャーは驚いて
フレイジャー:ナイルズ、助けを呼ぶんだよ!
ナイルズ:どこに電話しろっていうの。レンタカー屋? 行って、ベイビー、止まり木に行け。[うろたえて]餌場に行け、寝床に行け!
フレイジャー:ナイルズ、焦るな! 落ち着け。
ナイルズ:どうしたら落ち着けるんだよ? 時間ぴったりに六人のディナー客が来るって…
扉のブザーが鳴って、ベイビーはさらに深く爪を食い込ませる。
ナイルズ:痛い!
フレイジャー:獣医に電話しに行け、僕が出てとにかく場を凌ぐから。
ナイルズはあわててキッチンに入り、フレイジャーは扉に出てステファニーを迎える。
フレイジャー:やあ、こんばんは。
ステファニー:こんばんは。
フレイジャー:お入り下さい。
ステファニー:[見回して]早くなかった?
フレイジャー:全然。お飲み物をお持ちしましょうか?
ステファニー:ええ。白ワインをお願いします。[二人はワインデスクに向かい、フレイジャーが注ぐ]素敵なテーブルね![ダイニングのエリアを指して]
フレイジャー:ああ、偶然隣同士になってたよ。
ステファニー:よかった、じゃあ座席カードを入れ替えなくていいのね。
フレイジャー:ハハ、[グラスを掲げて]ガール・ネクスト・ドアに。
ステファニー:本当に廊下をちょっと行った所なのよ。
フレイジャー:車で送ってもらいたかったら遠慮なく言ってね。
扉のブザーが鳴って、キッチンから痛そうな音が聞こえる。
ステファニー:あれ何?
フレイジャー:多分ナイルズが何かで火傷でもしたんだと思うよ。心配しないで、大丈夫だよ。
フレイジャーは扉に出てさらに三人の客を迎え入れる。年配のカップルとやや若い女性。
フレイジャー:こんばんは、お入り下さい。私はフレイジャー・クレイン、ナイルズの兄です。
キャロル:キャロル・ラーキンです。こちらは夫のアルフレッド、そして姪のウェラです。
フレイジャー:ようこそ。どうぞごゆっくり、ちょっとキッチンに行ってトリの様子を見てきます。
フレイジャーがキッチンに入ると、ナイルズが獣医に電話している。
ナイルズ:[電話で]ええ、ええ、前にもあったと。わかりました。結構です、ありがとうございました。
フレイジャー:獣医は何て?
ナイルズ:彼の考えでは、ベイビーは火で心が傷ついてショック状態になったんだろうって。無理にどかすんじゃなくて、緊張を解く必要があるって。
フレイジャー:よし、お前はそれをやってろ、僕の方はあっちの部屋に将来のクレイン夫人がいるんだ。
ナイルズ:ちょっと待って待って、どうやって鳥の緊張を解けって言うの?
フレイジャー:知るか。そうだ、去年の春、お前が精神医学会でやった基調講演を聞かせてみなよ。
フレイジャーが部屋に戻ると、全員座っている。
フレイジャー:みなさんお揃いですね?
アルフレッド:ドクター・クレインはすぐお見えになりますか?
フレイジャー:ええ、そう思います、すぐです。
玄関のベルがまた鳴って、ナイルズのさらに大きな苦痛の声が聞こえる。
キャロル:まあ、何かありましたか?
フレイジャー:立派なオーブン用の鍋つかみがあるだろ、っていつも彼に言ってるんですが、全く…
フレイジャーは扉に出てピーターとエレインを迎える。
フレイジャー:こんばんは、お入り下さい。私はフレイジャー、ナイルズの兄です。
ピーター:ピーター・スーテンデックです、お会いできてうれしいです。こちらはエレイン・ヘンズレイ。
エレイン:実は弟さんと私は知り合いなんです。マリスは大親友なんですの。
フレイジャー:本当ですか?
エレイン:ええ、[見て]ナイルズはどちらに?
フレイジャー:キッチンにいます、今夜は素晴らしいキジ肉をご賞味いただこうと。
キッチンから鳥の鳴き声。
フレイジャー:ご承知の通り、彼は新鮮さについてはうるさくてね!
フレイジャーがキッチンに走り込むと、ナイルズはまだベイビーを頭に乗せたまま立っているが、ベイビーにタオルを掛けている。
フレイジャー:今度は何だ?
ナイルズ:夜のふりしてるんだ。そしたら眠るだろ。
フレイジャー:とてもかわいいよ。
ベイビー:かわいいけどアホウ!
フレイジャー:なあナイルズ、もう彼らを引き止められない。みんな質問し出すよ。しかもあのオランダ人の彼女はマリスの知り合いだぜ。
ナイルズ:何だって? 誰連れてきてる?
フレイジャー:エレイン何とか。
ナイルズ:どのエレイン? マリスの知り合いにはエレインが三人いるんだ。
フレイジャー:知るか、すごく痩せてて、凝った服着てて、もったいぶってるの。
ナイルズ:それで大体絞り込めた!
フレイジャーとナイルズは扉から頭を出してエレインが飲み物に口をつけているところを盗み見る。キッチンに戻る。
ナイルズ:まずい! これを恐れてたんだ、悪い方のエレインだ。マリスのすごく昔からの友達。キバタンを頭に乗せてパーティーを開いたってマリスに告げ口するくらい彼女を喜ばせることはないよ!
ベイビー:どうぞ召し上がれ!
主室の客たちにベイビーの最初に覚えたフランス語が聞こえる。
エレイン:今の何?
フレイジャー:[カニのパフを持って入ってきて、ごまかそうとする]どうぞ召し上がれ! カニのパフはいかがですか? どうぞ召し上がれ!
以後、フレイジャーはホストのようにふるまい、客たちにジョークを言ったりする。
フレイジャー:まさにそのとき、その女性がチャーチルに言ったんです、「首相、あなたが私の夫だったら、私、あなたのコーヒーに毒を盛ってますわ」 そしたらチャーチルがピシャリと、「奥様、あなたが私の妻だったら、私はそのコーヒーを飲みますな!」[自分で笑う]この話ご存知だったようですね。
アルフレッド:ああ、チャーチルから聞いた。
フレイジャー:えっと、どなたか飲み物をお注ぎしましょうか?
全員が空っぽのワイングラスを掲げる。
フレイジャー:瓶ごと持ってきましょうかね。
彼がバーに行くと、ステファニーが近づいてくる。
ステファニー:あなたが一晩中ホスト役をやるって知らなかったわ。その、話すチャンスがほとんどなかったけど、今夜は早めに失礼しなきゃいけないの。
フレイジャー:ホントに?
ステファニー:ええ、朝イチでパリに行くのよ。本当に二人きりで過ごしたかったんだけど。
フレイジャー:じゃあそうしよう。たった今は僕たちだけだから、僕は完全に君だけのもの…[エレインがキッチンに歩いて行くのを見て遮りに飛んで行く]…これやってからね。エレイン、何かお持ちしましょうか?
エレイン:ナイルズがそこで何をしているか見ようとしただけなんです、手助けできるかもしれないから。
フレイジャー:じゃあ、ワインを注いで下さい…
ナイルズがフレイジャーをキッチンに引きずりこむが、まだタオルを頭の上に乗せている。
フレイジャー:お前のせいでステファニーとのチャンスがすっかりダメになってるよ!
ナイルズ:[皮肉っぽく]ああ、僕も一番それを心配してたんだよ。混ぜて。[フレイジャーはサラダを和える]彼女が兄さんと同じくらいヤリたがってるって思いたいからと言って僕を見捨てないで。手伝ってよ。
フレイジャー:お前がやるべき最初のことは、獣医に行ってそいつにどいてもらうことだよ!
ナイルズ:気でも狂ったの? こいつを頭に乗せたままあそこを歩いて行けるわけないでしょ、モンタナの笑いぐさになっちゃうよ。
フレイジャー:キッチンに一晩中いるわけにもいかないだろ!
ナイルズ:フレイジャー、彼らはゴシップに生きてるんだよ。僕はここに来て三日なのに、もうピーターがスケベでキャロルがアル中だって知ってるんだ。僕が何て言われることになると思う?
フレイジャー:なあ、俺はこの45分間を彼らと過ごしたんだよ。彼らはたまたま親切で話がわかる人たちだし、お前の問題に同情してくれると思うよ。
ナイルズ:ホントに?
フレイジャー:ああ。
ナイルズ:彼らは笑わないと思う?
フレイジャー:笑わない。それに、お前がずっとここにいたら、みんなお前のことを無礼で礼儀知らずで、—あえて言うが—ひどいホストだと思うぜ。
ナイルズ:よし、出るよ。でも彼らが僕を笑い者にしたら、そいつは兄さんの頭の上に降りかかるからね! 扉を開けて。
フレイジャーが居間に入って、彼らに知らせを伝える。
フレイジャー:みなさん? ちょっと聞いていただきたいんですが、ナイルズはちょっとした災難で、医師に行かなければなりません。深刻な話じゃなくて、あるものを取ってもらわなきゃいけないだけなんです。ナイルズ!
ナイルズはベイビーを頭に乗せているがタオルはなし。
フレイジャー:ご覧のとおり、鳥がショックを受けて頭皮にしがみついてしまい、それで私たちはディナーをキャンセルするわけにもいかず…
ナイルズ:フレイジャー、フレイジャー、もういいよ。こんばんは、みなさん、全て本当に申し訳なく思っています。
エレイン:[同情して]まあナイルズ、その鳥のせいであそこにずっと隠れてらしたってこと? まあ、お気の毒に。
ピーター:うちの母にも一度同じことがありましたよ、猫でしたけどね。いや見ものだったよ!
キャロル:パーティーで恥ずかしい思いをしたことのない人なんているかしら?[酔っ払ってワインをぶちまけてしまい笑う]見てよ、ワインをドレスにこぼしちゃったわ!
ナイルズ:安心しました。実を言うと、長いことあそこにいたのがちょっと馬鹿げた感じです。
アルフレッド:痛むかい?
ナイルズ:いえいえ。誰も玄関のベルを鳴らさない限り大丈夫です。
ナイルズは鉤爪が食い込む真似をしたので皆が笑う。
フレイジャー:みなさん、少しくつろいでいただけたようです、多分鳥も緊張が解けるでしょう。あと一、二分ご一緒していただけますか? [全員が同意する]
ナイルズ:結構です、ではもっとワインがほしい方は? [頭に鳥を乗せたまま注ぎ始める]アルフレッド、白をお注ぎしましょう。どなたかチーズかクラッカーを召し上がりませんか?
ベイビー:ギャー。
ナイルズ:ダメダメ、ベイビー、お客様が先だよ! キャロル、そのドレスはとびきり素晴らしいですね!
キャロル:あら、ありがとう。
ベイビー:キャロルはアル中。
キャロル:その鳥、何か言った?
ウェラ:私に聞こえたのは…
ベイビー:キャロルはアル中。
アルフレッド:鳥がそんな言葉をどこで覚えられるんだ?
ナイルズ:鳥向けアダルト雑誌ですかね[訳注:Birds Today〜おそらくPeople Todayより]! こんなことをどこで覚えてくるのやらわかったもんじゃないですね! 皆でテーブルのピーターの方に集まりませんか?
ベイビー:ピーターはスケベ。
ピーター:何て言った?
ナイルズ:「みなさん、座りましょう」と言いました。
ベイビー:ピーターはスケベ。
ピーター:君発案のジョークかね?
アルフレッド:もうたくさんだ。キャロル、行こう。[彼らは席を立ち始める]
ナイルズ:そのまま、キャロル、行かないで、僕は鳥にこんな言葉を教えたりしていません、どこで覚えたのかわかりません。
フレイジャー:お願い、いてくれるよね、ステファニー?
ベイビー:ステファニーはヤリたがってる!
ステファニー:[あっけにとられて]何ですって、陰で私のことをそんな風に言っていたの?!
フレイジャー:違う、違う、君のことをそんな風に言ったことはない、僕のことを言ったんだ! ヤリたがってるのは僕で、僕が言ったのは君がすごくかわいいってことだけ。
ベイビー:かわいいけどアホウ!
ステファニー:[皮肉っぽく]さて、お二人とも素晴らしい夜をありがとう! 失礼するわ!
フレイジャー:ステファニー、説明させて。
ナイルズ:[彼女について扉へ行く]出だしを誤りましたけど、ご近所になるんですから、…
彼女が扉のブザーを思い切り長押ししたので、ナイルズが叫ぶ結果になる。
彼女は去る。

フレイジャー:さて…大変ありがとうございました!
ナイルズ:頼むよ、兄さんよりも僕の方が失ったものは大きいんだ!
フレイジャー:ホントか? 何年間で一番ロマンスがうまく行きそうだったんだ! お前は何を失った? 気取ったアル中とスケベなオランダ人の尊敬だろ! 繰り返して言ってみろベイビー!
ナイルズ:いいよ、謝るよ。
フレイジャー:いいんだ。じゃあ車で獣医に連れて行ってやるか。業務用エレベーターに乗った方がいいよな?
ナイルズ:どういう意味? 僕の評判が今までよりも下がることはないと思うよ。
フレイジャー:それはどうかな。労働者の日が過ぎても白い鳥を身に着けてるようじゃな[訳注:労働者の日(9月1日)は夏が終わった日。アメリカには、夏が終わったのに白い物を身に着けているのは上流社会のルールに反すると言われていた時代があった。らしい。]
二人は退場。

第2幕了


エンドロール

ナイルズは、もう鳥を乗せておらず、差し迫った様子で電話で獣医と話している。カメラが回ると、フレイジャーが長椅子に座っているが、タオルを被されたベイビーが今度は彼の頭に止まっている。フレイジャーはクラッカーをワインに浸してベイビーにやろうとする。が、ベイビーは食べようとしないので、彼は不機嫌そうに自分でそれを食べる。