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[4.13] Four For The Seesaw

[4.13] 四人でシーソー[引用 "Two for the Seesaw"(すれ違いの街角)]


第1幕


第1場—ラジオ局


番組の終わりにさしかかっている。
フレイジャー:みなさん、またインフルエンザの季節ですね。恒例により、KACLでは従業員とその家族に無料のインフルエンザ予防接種を行ないます。予防接種の重要性をお知らせするために、生まれてこの方怖かった注射針ですが今日は我慢して、コマーシャルの後にこの場で接種を受けましょう。
フレイジャーがボタンを押すとマーティンとダフネが入ってくる。
マーティン:もう30分外で座ってたぞ、行かなきゃならん所があるんだ。
フレイジャー:クレイマン先生がこっちに向かってるよ、父さん。
ロズ:[ブースに入ってくる]フレイジャー、注射が怖いの?
フレイジャー:まさか。本当に怖がる人を励ますために言っただけさ。
ロズ:そりゃ役に立つわ。だってこの注射の針ってこーんなに長いし[指で長さを示す]、筋肉に刺さったときにもし神経に当たったら…
フレイジャー:[居心地悪げ]もう結構。
ダフネ:注射は完全に無害ですよ。心配いりません。そりゃたまに静脈に空気が入ったり針が骨に当たって針の先が折れたり、って話は聞きますけど——例外ですよ。
マーティン:もういいよ! 行くぞ。
ダフネ:でも予防接種は? 私はいつもやってもらうんです!
マーティン:今日はやめだ、マクギンティの店に連れてってくれるって言っただろ。デュークと5時きっかりに約束したんだ。もし俺がその時刻にいなきゃ奴につけこまれる。座って下唇を突き出してさ、皿のブラジルナッツをみんな食っちまうんだよ、俺が好きなの知ってるから! だから行くぞ。
マーティンはダフネを無理やり連れて出ていく。
フレイジャー:酒場のじいさんたちが昔ながらのやり方で紛争解決してて安心するよ。
ドクター・クレイマンが入ってくる。ロズは毎度のことで、思いがけない出会いに目を瞠る。
クレイマン:ドクター・クレイン。
フレイジャー:ああ、ドクター・クレイマン。
クレイマン:遅れてすみません。最後の患者さんがひどく出血して。
フレイジャー:[心配そうに]そりゃ…
ロズ:15秒。
フレイジャー:これは礼儀知らずな真似を。[ロズに向かって]君、お先にどう。
ロズ:もう受けたわ。[クレイマンに向かってしなを作って]でも一度検査受けてもいいかもね![フレイジャーに向かって]始まりよ。
ロズは自分のブースに出て行く。
フレイジャー:[ボタンを押す]皆さん、帰ってまいりました。さて今日最後のお客様はドクター・モリス・クレイマンです。私の予防接種をご担当いただきます。ま、そんなに急がなくても? 今年特定されたインフルエンザの型を知りたいなぁ、なんてお聞きしたりして。
クレイマン:主にシンガポール型とグアテマラ型ですね、袖をまくって下さい。
フレイジャー:で、どうやってここまでたどり着いたんですかね?
クレイマン:さあね。袖をまくって。
フレイジャー:[袖をまくりながら]うっかり者の旅行者ですかね? 手荷物の係の人とか? お土産ものが汚染されてたとか?
ロズ:ドクター・クレイン、そろそろ時間切れです。接種を受けたいんでしょ?
フレイジャー:[イヤイヤしながら]もちろんですよ。
クレイマン:結構、まず針を打つ場所をアルコールで拭いてから注射を打ちます。[拭く]はいおしまい。
フレイジャー:ホント? 全然痛くなかった。ではみなさん、新免疫付きドクター・フレイジャー・クレインがお届けしました。
フレイジャーがボタンを押すと、ドクター・クレイマンは鞄から大きな針を取り出す。
クレイマン:いやいや、まだアルコールですよ。これから注射です。
フレイジャーが振り返ると目の前に針が、そしてクレイマンが針を刺すととんでもない大声で叫び出したのでロズは飛び上がってヘッドホンを外す。
溶暗

第2場—カフェ・ネヴォーサ

シタゴコロ

混んでいるカフェで、フレイジャーとロズが入ってきてナイルズと会う。
ナイルズ:遅いよ。テーブルがみんなふさがってる。
ロズ:あら、そこに一つ空いてるわ。席取った。
フレイジャー:ロズ、ナイルズが先にいたのに。
ロズ:だめ、人と会うんだから。お願い、ね?
ナイルズ:へえ誰と? また別の「永遠に一緒、ただし明け方まで」の関係のお相手?[訳注:till-dawn-do-us-part relationships=till death do us part死が二人を分かつまで、のもじり]
ロズ:イヤなこと言うわね! ホントに望みがあるかもしれない人なの。すごくウマが合うのよ。
ドクター・クレイマンが登場して皆に挨拶する。
フレイジャー:おやおや! 僕の目を逃れていつの間に?!
ロズ:あなた、彼に注射してもらった後、30秒くらい気を失ってたの!
ロズとクレイマンはテーブルに着く。
ナイルズ:みんな腰を落ち着けちゃってるよ、僕らはずっとここだ。
フレイジャー:な、ナイルズ、相席にしてもらえるかもよ。あそこに二つ席が空いてる。
フレイジャーが指差す先は窓際の席で、二人の女性が座っておしゃべりをしている。
ナイルズ:やだよ、赤の他人と座れないよ。
フレイジャー:できなくもないさ。僕たちの奥さんも赤の他人みたいなもんだぜ![二人は笑う。]
ナイルズ:でもホント、僕そんな気分じゃないよ。
フレイジャー:まあ気楽に行こうよ。成り行きに任せて変化を味わうのもいいもんだぜ。
ナイルズ:僕…僕はただ…何の話をすればいいかわかんないかも。それに、僕、既婚者だよ。
フレイジャー:もうお前ときたら、いつになったらその使い古しの言い訳をやめる気だよ——マリスと「付かず離れっぱなし」の関係なのに?
フレイジャーとナイルズはそのテーブルへ行く。
フレイジャー:こんにちは、すみません、他のテーブルが空くまでご一緒させていただくわけにはいかないでしょうか?
ローラ:あら、どうぞ!
フレイジャー:ああ、ホントにありがとう、助かります。[ローラの隣に座る]私、フレイジャーと言います…[ナイルズが自分の椅子の埃を払っているのを見て]指紋を消そうとしているこちらの男性は弟のナイルズです。[ナイルズも座る]
ローラ:私はローラで、彼女はベスです。
皆で挨拶を交わす。
[原注:Lisa DarrとPeri Gilpinは短命に終わったテレビ番組"Flesh n' Blood"のレギュラーだった。]
フレイジャー:で…お二人は何をなさってるんですか?
ベス:聞かない方がいいわ。
ナイルズ:そんな、どうして?
ローラ:男性にはきっとつまらない話ですもの。
ベス:そうよ、この話題になると男の人って遠い目になっちゃうの。
フレイジャー:何をおっしゃるやら。僕らはそんじょそこらの男どもとは違いますよ。話してみたらどうです?
ローラ:[あきらめて]私たちキッチンのデザインをしているの。
二人はおののいて息を呑む。
フレイジャー:ところがどっこい! 下引き換気扇と磁器製のはねよけプレートの利点の話ならいつでも受けて立ちますよ。
ローラ:まあ! いったいどちらの坊やかしら?
ナイルズ:それにステンレスのダブルシンクに一体型の水切板をつける話だったら、僕はサブゼロ社のフリーザーみたいにブンブン言わせますよ!
ベスとローラは男子二人と同様に驚いて面白がる。
フレイジャー:思うに、いいキッチンの条件はくつろぎ感ですね。
ベス:そうなの、今のトレンドはまさにそれね——リビング感覚のキッチン。
ナイルズ:僕らの父親ときたらキッチン感覚のリビング。もちろん論外ですけど!
皆笑う、とりわけベス。
ベス:面白い方ね! うまいこというわぁ。[ナイルズに向かって目をしばたたかせる。]
ナイルズ:[どぎまぎして]どうも。
フレイジャー:あ、ナイルズ、テーブルが空いたよ。[立ち上がろうとする]
ローラ:あら、行かないで! いて下さい。
ベス:そうよ、楽しいわ。
フレイジャー:そうですね、楽しいよね、ナイルズ?
ナイルズ:僕の言ったとおりでしょ。
フレイジャー:ではコーヒーを取ってきましょう。
フレイジャーはカウンターへ行く。
ナイルズ:僕、僕…[ナイルズの声は消え入りそうになる。というのもベスが彼をじっと見つめたまま、ビスコッティをコーヒーに浸して、誘うように端をかじってみせるので。]
ナイルズ:手伝ってこようっと。
ナイルズはフレイジャーの所へ行く。
フレイジャー:パニック起こしてたな!
ナイルズ:ごめん、こんなの慣れてなくてさ。それにあの二人、その気になってるよ。
フレイジャー:魅力的だな、ナイルズ。
ナイルズ:そりゃもう!
フレイジャー:外に誘おうか?
ナイルズ:デートに? 会ったばかりなのに!
フレイジャー:いい所に気がついたなナイルズ! 多分、一緒に何度か外出してから初めてデートに誘うんだな!
ナイルズ:ちょっと急ぎ過ぎみたい、って言いたかっただけだよ。
フレイジャー:だからこそ、だよ。[コーヒーを受け取る]今日は成り行きで行くんだ。行こうぜ。
ナイルズ:いや楽しいことは楽しいんだ…ただ、わかったよ、やるよ。あっ、あっ、待って。 まだ仮説の段階だよ。
フレイジャー:は?
ナイルズ:二人とも同じ女性に気があるのかも。
フレイジャー:おっと、考えもしなかった。
ナイルズ:よし、じゃ言うよ。僕はベス。
フレイジャー:よし! 助かった、危ない所だった。[]どっちがベス?
ナイルズ:こっち側の人だよ。
フレイジャー:よっしゃ!
フレイジャーとナイルズはテーブルへ行く。
溶暗/場面転換

第3場—フレイジャーのアパート


ベス&ナイルズとフレイジャー&ローラがアパートに入ってくる。
フレイジャー:ここです。
ローラ:まあ、フレイジャー、素敵なアパート。
フレイジャー:いや、ガラクタをちょいちょいと放り込んだだけですよ。こっちにはオブジェ、あっちにはアンティーク、なーんてね。
ベス:[マーティンの椅子に気づいて]そしてここには年代物の椅子なのね。フレイジャーの言う通りだわ!
マーティン:[登場]おや、いらっしゃい。
フレイジャー:父さん。
ナイルズ:父さん、こちらベス・アームストロングとローラ・パリス。
挨拶を交わす。
マーティン:どうぞお座り下さい。[一同座る]ダブルデートだったのかな?
ベス:そんなとこです。昼に初めてお会いして、あれよあれよと言う間にディナーに誘われてて、それからシアトル劇場に。
マーティン:ほお、何をご覧に?
ローラ:『晩餐に来た男』です。気むずかしい病人が人の家に入り込んで、その家の人たちが気が狂いそうになるって話でした。
マーティン:コメディですかな?
フレイジャー:[お盆にブランデーを乗せて現われる]そう思うことにしてるよ!
マーティン:そうかい、イヤミ君。実はいい話があったんだが。週末シェリーと山に行くはずが都合が悪くなってさ、でも山小屋の支払いは済んでるんで、お前たちが行けばいいと思ってね。
フレイジャー:ありがとう、父さん、でもローラと僕はコンサートに行く予定にしてるんだ。
マーティン:でお前の方は、ナイルズ?
ナイルズ:ベスと僕は展覧会の初日に出るつもり。
マーティン:そうか、じゃ、誰かいたら教えてくれ。お会いできてよかったです。息子があなた方を連れてきてくれて本当に嬉しいんですよ。前回こういう風に言ってそれが言葉通りだったのはもう随分前ですからね!
マーティンが部屋に引き取ると、彼らはブランデーを取り上げる。
ナイルズ:ま、父さんは僕らの結婚相手に感心してなかったってこと。
フレイジャー:そ、幸いその頃からするとずっと僕の趣味はよくなったけどね。
ローラ:[意味ありげに]あなたの趣味は素晴らしいと思うわ。[]ブランデーのことよ、もちろん。
フレイジャー:[グラスを覗き込みながら]ふむ、滑らかな口当たり、しっかりとしたボディ…僕は違いますからね。[ローラは彼に微笑む]
ナイルズ:さて、今日の出来事を祝って——ぶっつけ本番に乾杯しましょう! 知らない道をたどるほど ワクワクすることはありません、どこに通じるかわからず、道のうねりをただ楽しみ、景色を眺め、それがどこにたどり着くかを…えーっと….。
フレイジャー:多分、この乾杯までのパンくずの跡を見失っちゃったんじゃないかな!
ローラ:ねえ、フレイジャー、私をコンサートに連れて行って下さるためだけにせっかくの郊外での週末を逃すのは申し訳ないわ、コンサートは来週でも行けるんですもの。
フレイジャー:それはそうかも…思いついた。成り行き任せの精神でこんな遠くにまで来たが、——今回の予定を延ばしてみんなで週末山小屋に出かけるってのはどう?
ローラ:素敵。
ベス:楽しそう。
フレイジャー:じゃあ決まりだ。土曜日の朝、高原にドライブだ!
ナイルズ:そうだ、君たち二人、ここに来て5分たったのにまだフレイジャーのキッチンを見てないよね。
フレイジャー:そんな特別なものじゃないよ。
ナイルズ:プロの判断を仰ごう。
ローラ:ちょっと覗いてみたかったの。
ナイルズ:覗いて覗いて。
二人は立ち上がってキッチンへ向かう。
ナイルズ:いつか彼の人工大理石のカウンタートップについて話してくれたら——くれたら——恩に着るよ。
ベス:[立ち止まってナイルズを見て]あなたったら、ホントに愉快な方。
ベスとローラはキッチンへ去る。
フレイジャー:どうしたんだよ?!
ナイルズ:だってちょっと展開が早いよ。今夜出かけるだけでも大ごとだったのに、スーツケースを詰めるとこまで行くなんて、そもそも僕の今の状況では、僕は…
フレイジャー:ナイルズ! お前はいつになったらマリスをお前の社会生活の重石にするのをやめるつもり?
ナイルズ:重石だなんて、兄さんそりゃあまりにこじつけだよ! マリスが重石?!
二人は言い争う。
フレイジャー:彼女の体重がよしんば軽いとしても…何じゃそりゃ、もうやめろ、話がそれてるぞ! 今日の午後、お前の人生で初めて、全く知らなかった完璧に可愛い女性が週末一緒に遠出してくれるって言ってるんだぞ。まさに今までお前がずっと夢見ていた筋書きってもんじゃないか?
ナイルズは考えているうちにニヤケてくるのを抑えられない。
ナイルズ:うん。
フレイジャー:この機会を逃したら後悔しないか?
ナイルズ:[元気を得て]うんっ。
フレイジャー:よし、じゃあ、お前の臆病なリスク回避人生で、やっとメリーゴーランドの金色の棒を握れる時が来たんじゃないか?
女性たちが戻ってくる。
ローラ:素晴らしいキッチンね、フレイジャー! カプチーノ・メーカーを動かしたくならない?
ナイルズ:[元気いっぱいで]そうだ![]でも、この時刻にあんまりカフェインを取ると、きっと…[フレイジャーにぶたれる]よっしゃー!!!

第1幕了



第2幕

ヴィトンでイケイケ

第1場—山小屋


フレイジャーと、ナイルズ、ローラ、ベスが荷物を持って山小屋に入ってくる。
フレイジャー:さ、着いたぞ。お先にどうぞ
ローラ:わあ、完璧な場所ね。
ベス:空気がよくない? 赤ちゃんみたいに眠れそうよ。
ローラ:私も。
フレイジャー:文明の利器のない生活が嫌じゃなければいいんだけど。ラジオもテレビもないんだから。
ローラ:楽しみを自分たちで作り出せばいいだけのことだと思うわ!
ベス:何とかできるはずよ。ね、外を散歩しましょうよ。
ナイルズ:火を起こして僕らもすぐ行くよ。
ベス:わかったわ。
ベスとローラは出て行く。
フレイジャー:さて、まあまあうまく行ってるよな?
ナイルズ:うん、それから僕の腕をつねってくれてありがと。
フレイジャー:新しい自分だって気がするだろ?
ナイルズ:新しい彼女だって気がするし、ありがたいことに詰め忘れずに済んだよ![二人は笑う][訳注:すみません、ここよくわかりません]ねえ、ベスと僕が同じページにいるといいな、と思うよ。あんまり久しぶりだからシグナルの読み取り方を全部忘れちゃった。
フレイジャー:なあナイルズ、「私たち自身の楽しみ」って言葉を理解するのに解読リングはいらないぞ!
ナイルズ:[下品なクスクス笑い]いらなーい!
二人は笑う。
フレイジャー:でもさ、赤ちゃんみたいに眠るとも言ったな。
ナイルズ:言った! プラトニックで考えてるかもよ。彼女ら二人が一つの部屋で赤ちゃんみたいに眠るんだ。
フレイジャー:僕らがもう一つの部屋で赤ん坊みたいに泣くってか。
ナイルズ:まあ僕らは皆大人なんだし、彼女らが何を考えているのか聞けばいいと思うよ。
フレイジャー:そりゃ最悪だよ! 関心がなかったらどうする? 彼女らは恥ずかしがるだろうし散々な週末になっちまうよ。
ナイルズ:そうだ! 荷物でわかるよ! 僕のカバンを兄さんの彼女のと一緒にして、兄さんのカバンを僕の彼女のと一緒にしておくんだ。彼女たちが間違いに気づくだろ、それで彼女らがどんな風に戻すかを見れば二人が誰と一緒に寝るつもりかわかるじゃない——自分たち二人でか、僕らとなのか——それにどっちにせよ単純な間違いにしか見えないし。
フレイジャー:前に同じことをやったことがあるな!
ナイルズ:新婚旅行の時だけだよ、さあ急ごう!
フレイジャーとナイルズは仕事に取りかかる。するとフレイジャーが立ち止まる。
フレイジャー:ナイルズ、バカげてるよ! 僕らはベテランの精神分析医だぜ。
ナイルズ:そうだね、やっと元が取れるよ!
ローラとベスが入ってくる。
ローラ:ああフレイジャー、ここは天国だわ。
ベス:ワインを開けて日没を見ない?
ナイルズ:日が沈むまでにはまだもう少しあるよ。先に荷ほどきを済ませておけばもっと楽しめるかもよ!
ベス:後でも大丈夫よ。
ローラ:そうだ、ところでベスと二人で話したの、お二人は今夜のことどう考えてるかわからないからちょっと先走りだと申し訳ないんだけど、気まずくなっても何だからここではっきりさせておきたいの。
男性陣は期待して待ち受ける。
ローラ:夕食は私たちに持たせて。
フレイジャー:[ガクッ]えーっとそれはありがたい。気まずいって言えば…その、何だ…。
ナイルズ:日没を見て!
女性陣は窓際へ行く。
フレイジャー:お前は俺と同じくらい頭が変になったな?
ナイルズ:気が遠くなっちゃって。
フレイジャー:もういいよ! 僕がきっぱりと決着をつけてやる。俺に任せてついてこい。
フレイジャーとナイルズは女性たちの傍に窓際に行く。
フレイジャー:素敵だねぇ?
フレイジャーがローラの腰に腕を回すと、ローラは彼に寄り添う。
ナイルズ:そうだね、素晴らしいよ。
ナイルズがベスの腰に腕を回すと、ベスも彼に寄り添う。男たちは後ろに体をひねって女性たちの背後で「やった!」と顔を見合わせる。しかし、ローラとベスは続いて互いに友達のように腕を回し合う。男たちはまた後ろに体をひねって顔を見合わせる。「今度は一体何?!」
溶暗/場面転換

第2場—フレイジャーのアパート。

ダフネが額にタオルを当てて、湯の入ったボウルを置き、寝椅子に横たわっている。マーティンが登場してビールを持って自分の椅子に座る。
マーティン:暑くないか?
ダフネは起き上がってマーティンを睨みつける。
マーティン:医者は何だって?
ダフネ:何でも私は…えーっと、お医者さんが言ったあの医学用語、何でしたっけ? あっ、思い出した——インフルエンザ!
マーティン:予防接種を受けさせてやらなくて本当に悪かったよ。何かお前さんにしてあげられることがあるか?
ダフネ:そうですね、私が子供の頃病気になったら、ムーンおばあちゃんがは私が寝付くまで本を読んでくれました。とても安らぐんです。
マーティン:ふむ。[本を取り上げて]これを読んでるのか?
ダフネ:ええ。
マーティン:『薔薇と剣』だと?!
ダフネ:気が向かないんであれば…[激しくくしゃみと咳をして、口に口腔清涼剤をスプレーする]別に結構です。
マーティン:そんなこたないさ、読むよ。
ダフネ:しおりの所まで読みました。
ダフネはソファにくつろぐ。
[原注:『薔薇と剣(The Rose & the Rapier)』はシーズン3、エピソード7、[3.07] "The Adventures of Bad Boy and Dirty Girl."に登場したDeirdre Sauvage(ロマンス小説家)の新作。]
マーティン:わかった。よし。[読む]「狼狽して息を呑み、彼女は彼に走り寄ったが、彼女のすみれ色の目は警戒で大きく見開かれていた。『バカな人ね』と彼女は囁いた、『誰かに見られたかも。公爵の家来たちが至る所にいるのよ』」[目を上げて]悪くないな。
ダフネ:言ったでしょ。
マーティン:[読む]「『バカな人』と彼女はまた囁いた、『ああ、あなた、勇敢で素晴らしいおバカさん。あなたが私の寝室を見つけて下さらなかったら、私、死んでしまってたわ』」[急に当惑して]何てこった! [読む]「そして彼女は彼の腕に抱かれて、彼女の良心の呵責は忘れ去られた、…[椅子に座ったままもぞもぞする]…彼女は彼の服を引き裂き、彼のむき出しになったたくましい胸に、貪るように唇を押し付けた。」
マーティンが ダフネを見やると眠っているように見える。彼は何ページかめくる。
マーティン:[読む]「翌朝…」
ダフネ:飛ばしましたよ!
マーティン:わかったわかった! [戻って読む]「彼の遠慮を知らない指が彼女の豊かな…[咳でごまかしながら「胸」と言って赤面する]…胸から絹の衣を引き剥がすと、彼は彼女の震える大理石のようなふくらみを見つめた。[ビールをがぶ飲みして急激にカラカラになった喉を潤す]そのとき、彼女は彼の激しい情熱の証が…[額から汗を拭う]自分のなめらかな太ももに押し当てられているのを感じた。彼のまるで神のような美しさを損なっているのは、ただ…
マーティンは眠っているダフネを見る。
マーティン:…彼が…[本を閉じる]寄り目で、背丈が1メートルくらいで、フクロウの糞みたいな口臭がすることだった!
マーティンがダフネを見ると彼女は明らかに深い眠りに落ちていたので、彼は満足げ。
溶暗/場面転換

第3場—山小屋

その夜、フレイジャーと、ナイルズ、ローラ、ベスはワインのグラスを傾けながら暖炉の傍に座っている。
ローラ:美味しいワインのグラスを持って暖炉の傍でのんびりする以上にくつろげることってある?
ベス:知る限りないわね。
ナイルズ:二人ともすっかりくつろいじゃってるよね。荷ほどきをまだ済ませてないのにそんなに安らげるんだから。
ベス:あらナイルズ、そんなに荷物は多くないもの。
ローラ:そうよ、この週末にそんなにたくさんの服はいらないと思ったのよ!
フレイジャーとナイルズはこれが何かの暗示なのか互いに見交わす。
ローラ:さて、お開きは残念だけど少し眠くなってきちゃった、そろそろ休みたいわ。
ベス:そうね、ちょっと遅くなってきたわね。[フレイジャーに向かって、ワイングラスを指して]お済みかしら?
フレイジャーがグラスを渡すとベスはキッチンへ行く。その間、ローラは寝室に行く。ナイルズとフレイジャーは真ん中に集合。
フレイジャー:ナイルズ、俺、もう頭がグチャグチャだよ!
ナイルズ:彼女らはスフィンクスみたいに謎だ!
フレイジャー:全くだ、ベールに覆われた秘密めいたわけのわからないメッセージだらけ。はっきりとしたサインを出せないもんかな?!
ベス:[部屋を横切りながら]じゃあ失礼して寝るわ。ナイルズ、あなたも来る?
ベスはもう一つの寝室へ去る。
ナイルズ:[理解せず]ひどい謎かけがいまいましいよ!
フレイジャー:ナイルズ!
ナイルズ:[理解して]てことは、僕が彼女が言ったと考えていることを彼女がホントに言ったってこと?
フレイジャー:いいから行けって!
ナイルズ:スーツケース! スーツケース!
男たちはスーツケースを交換する。
ナイルズ:兄さんほら。
フレイジャー:ゆっくりお休み。
ナイルズ:兄さんも。
フレイジャーはナイルズが携帯電話を取って番号を押しているのに気づく。
フレイジャー:ナイルズ、何してんの?
ナイルズ:あっ、気にしないで。[電話に向かって]僕だ、奥さんいる? わかった、待ってる。
フレイジャー:なんだそりゃ、へんちくりんな前戯の類か?!
ナイルズ:良心が咎め始めてさ。
フレイジャー:いま?!
ナイルズ:ごめん、ただマリスとぼくの別居の基本原則を確認しておきたいだけだよ。
フレイジャー:わかったよ、いいよ。この一日を振り返ってどん底に見えてきたのかもな。ま、好きにするさ。
フレイジャーはローラが待つ寝室へ去る。
ナイルズ:[電話に向かって]もしもし、マリス。その、思ったんだけど、他の人とデートして、やっていいことと悪いことのきまりをはっきりさせてなかったよね。
ベス:[場面外で]ナイルズ、何してるの?
ナイルズ:[電話を覆って]今行く。[電話に向かって]僕、えーっと、こういうこと、僕らは他の人とデートしてもいいのはわかってる。で、問題は、どこまで行っていいかってことなんだけど?
彼の部屋のドアが開く。ベスが戸口に立ってネグリジェを着ており、ナイルズには全部見えている。彼女は彼をさし招く。
ナイルズ:[わずかによろめきながら、指を立てて囁く]すぐ行くよ。[彼女は微笑んで中に戻る。電話に向かって]ごめん、何だって? えっ、ホント? 素晴らしい、僕が知りたかったのはそれだけ。ありがと。
ナイルズは電話を切ってフレイジャーの部屋の扉をノックする。
フレイジャーは扉を開くがちょっと怒っているように見える。シャツのボタンが半分外されている。

フレイジャー:はい?
ナイルズ:兄さんは間違ってたよ。マリスは全然気にしないって。
フレイジャー:あっそっ! じゃ失せろ!
フレイジャーは部屋に戻る。
ナイルズ:お楽しみの始まりだ!
ナイルズはワインのボトルを持ってベスの部屋に入る。しかし2秒もしたら、ナイルズはワインを持ったまま大部屋に戻ってきて、フレイジャーの部屋の扉をノックしに行く。
フレイジャーは答えるがさらに怒っていて、今回はシャツのボタンは全部外されておりズボンのベルトも外し始めている。

フレイジャー:何だ?!
ナイルズ:マリスが全然気にしないのはなぜ?
ローラ:[場面外で]どうしたの?
フレイジャー:何でもない、ちょっとだけ。ナイルズだ。すぐ行く。[続いてナイルズに]それがどうした?
ナイルズ:つまり、マリスにも彼氏がいるから罪悪感を軽くしようとしてるんだ。
フレイジャー:わかった、ナイルズ、それでお前はどうしたいんだ? 一晩中気をもんでいたいのか?——マリスに楽しみを全部取られて。
ナイルズ:まさか、もちろん違うよ。
フレイジャー:じゃ、——[幾分パンチを弱めて]行きたまえ!
フレイジャーは、ナイルズがワインの瓶を持ってベスの部屋に行き、男らしく得意になって扉を蹴飛ばして開けたのを見る。フレイジャーは自分の部屋に引き取る。部屋は暗くなる。しかし、ナイルズの携帯が部屋で鳴り始める。ナイルズがまた出てくる。
ベス:[場面外で]ナイルズ!
ナイルズ:あー、チョトマテチョダイ。
ナイルズは電話に出る。
ナイルズ:もしもし? うん、マリス。あ、わかった、でも…わかった。
ナイルズは電話を切るが困惑している。そして、またもやフレイジャーの部屋の扉をノックする。今回は彼はボクサーパンツしか履いていない。
フレイジャー:はいっ!!
ローラ:[場面外で]フレイジャー!
フレイジャー:すぐ行く。
ナイルズ:マリスの気が変わった、僕にそういうことをしてほしくないって。何が起こっているかわかる?
フレイジャー:ああ! お前の元妻は俺の性生活をめちゃくちゃに破壊してるんだ! それよこせ!
フレイジャーはナイルズの電話をひったくるように奪う。しかし電話がまた鳴り始める。それでフレイジャーは極限まで怒り狂って玄関の扉へ向かう。
ナイルズ:僕、出…何やってるの?
フレイジャーは扉を開けて電話を投げ捨てると、ベルが鳴りやむ。
彼は扉を閉じる。

ナイルズ:[仰天して]何てことするんだ? マリスの気がまた変わってたらどうするの、どう考えればいいかどうやってわかれって言うの?
フレイジャー:これっきりもう言わないぞ。この週末は考えるためのものじゃない、行動するためのものだ。クレイン兄弟が、ずっとずっとやってなかったことをやるんだ! 俺たちの惨めな、女に飢えた人生で一度だけ、何も考えずに楽しいことを飽きるまでやっちゃいけないか?!
二人は気づいていないが、ローラとベスが部屋に入っている。
フレイジャー:今日のことは考えるな、何が正しいとか考えるな! あいつらがローラとベスだとかも考えるな! [ローラは腕を組む]今夜は奴らは、生きて、息をしている、喜んでヤラセてくれる単なる二人の女だと考えろ!
ローラ:もう一度考えるのね!
ナイルズとフレイジャーは仰天して振り返るとローラとベスがそれぞれ自分の寝室に出て行くところで、二人は後ろ手に扉をバタンと閉じる。
フレイジャーはナイルズを見る。さらに悪いことにはナイルズの携帯電話が外から響いてくる。ナイルズは扉を開けて外を見る。

ナイルズ:僕の電話を投げたのはどの雪だまりか覚えてる?
フレイジャー:よし、もう一発当ててやる![ナイルズのシャツを掴む]
ナイルズ:フレイジャー! フレイジャー! フレイジャー!
フレイジャーはナイルズを扉の外に押し出す。

第2幕了


エンドロール

その晩、フレイジャーとナイルズは山小屋の居間で寝ている。フレイジャーはソファで、何枚か掛け布をかけているが、ナイルズは震えながら床で丸まっている。
フレイジャーは起きてナイルズを見て、ナイルズに枕を持って行ってやる。ナイルズを慰めるのかと思いきや、怒って枕をナイルズの頭にどやしつける。ナイルズは目を覚ます。
フレイジャーが寝椅子に戻ると、ナイルズは震えてまた寝る。