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[4.12] Death And The Dog

[4.12] 死とワンちゃん[引用 "Death and the Maiden"(死と乙女)]



第1場-ラジオ局


フレイジャーが番組を始めるところで、制御卓の前に座っている。
ロズはブースにいる。

フレイジャー:ロズ? 点滅しているランプがないよ。
ロズ:あら、奇遇ね、私の方もよ。
フレイジャー:で、最初の相談者は誰?
ロズ:誰も。
フレイジャー:で、残り時間は?
ロズ:なし。[キュー]
フレイジャー:[放送]シアトルの皆さんこんにちは、ドクター・フレイジャー・クレインです。さて、今日はいいお知らせがありますよ。この数週間で久しぶりのお天気で回線はガラガラですよ。さ、今すぐお電話を。[何も起こらない]ホントに待ち時間ゼロ! さあいらっしゃい、結婚生活が破綻している方、いるでしょ。仕事がうまくいかない方、[笑う]私以外の方でね! 広場恐怖症の皆さん、お出かけってわけありませんよね! [ランプ点灯に気づく]あっ、かかってきました! 出ましょう出ましょう。[ボタンを押す]今日は、どうなさいました。
アリス:[声のみ]こんにちは、ドクター・クレイン、アリスと申します。普段は明るいんですけど、今日は悲しいことばかり考え出しちゃったんです。仕事はつまらないし、子供は相手にしてくれないし… すっかり落ち込んじゃいました。
フレイジャー:アリスさん、今日はちょっと時間がありそうなので、お役に立つかもしれないお話をさせていただきたいと思います。お時間大丈夫ですか?
アリス:実は、3時だというのにまだバスローブを着てるんです。
フレイジャー:申し分ありません! さて、三日前のことなんです。私の父は飼い犬のエディのことがすごく気になって、獣医に連れて行ったんです…
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第2場-カフェ・ネヴォーサ

物語は、エディが憂鬱げに床に伏せているところから始まる。そばにはミルクのカップ。ダフネ、フレイジャー、ロズ、マーティンはエディの隣でテーブルを囲んでいる。
ロズ:でお医者さんは何て?
マーティン:医者も困ってね。わしゃ言ったんだ、エディは眠りもしなきゃ食べもしない、クンクン嗅ぎ回ったりもしないって。
フレイジャー:13-Bのフロビシャーの奧さんには朗報だね。
マーティン:医者が言うには、身体的には問題は見つからないって言うんだ、情緒的な問題じゃないかって。
ダフネ:そういえば、犬専門のセラピストがいるって聞いたことあります。犬の精神分析医が正解じゃありませんか?
フレイジャー:それが正解になるのは「我々ができそうな一番バカバカしいことは何?」っていう問題の場合だけだね。
マーティン:多分エディはただ寂しいだけなんだ、もう一匹飼ってもいいんじゃ…
フレイジャー:そこまでだ父さん! もう一匹飼うことはあり得ません。
マーティン:なんだよ、いいじゃないか、うちに弟でも妹でも遊び相手がいるより楽しいことはないだろう?
フレイジャー:その言葉には僕は昔一度引っかかってるんだよ、父さん!
マーティン:ま、こいつを連れて家に帰るよ。
ダフネ:わかりました、私も後から帰ります。帰る前にコーヒー豆をもらっていきますから。
マーティンはエディと一緒に退場。同時にダフネはカウンターに豆を取りに行く。ロズが一人の男性に気づく。
ロズ:あら、あたしのことチェックしてる男性がいるわ。近づいてきた、ちょっとどいて。ああ、もう遅い、他人のふりしてちょうだいね'。
カーゲン:こんにちは、ドクター・クレイン。
フレイジャー:これは、ドクター・カーゲン。
カーゲン:お邪魔でなければいいんですが?
フレイジャー:いや、全然。この人が誰かも知らないんですよ。
ロズ:フレイジャー! [カーゲンに向かって]こんにちは、ロズ・ドイルです。
カーゲン:ドクター・スティーヴン・カーゲンです。
フレイジャー:そうなんだ、ドクター・カーゲンは三ヶ月ほど前にうちのマンションに越してきてね——シカゴからでしたね、確か?
カーゲン:そうです。シアトルを見物するのは大好きなんですが、まだ見てない所もあって。
フレイジャー:でしたら、ロズがうってつけの案内人になりますよ。
カーゲン:本当ですか? いつか午後お時間のあるときに、ホットな場所を片っ端から見せて下さい。
フレイジャー:[笑って]あっ、そりゃ飛んで火にいる。
ロズ:喜んで。明日の午後でしたら空いてます。これ名刺です。[渡す]
カーゲン:すごい。電話します。会えてよかった、ロズ。ドクター・クレイン。
フレイジャー:ドクター・カーゲン。
ドクター・カーゲンが退場するとフレイジャー とロズはおしゃべり。
ロズ:[笑って]ありがと、フレイジャー! すごい素敵なドクターじゃない、あなたにプレゼントあげなきゃ! [窓越しに彼を見つめる]で何の先生なの?
フレイジャー:婦人科の先生だよ。
ロズ:[すかさず]冗談でしょ!
フレイジャー:何が?
ロズ:あの人本当に? いやだわ、婦人科医とデートなんてできるもんですか! 彼らが一日中何をしてるかわかってるの?
フレイジャー:ざっとはね!
ダフネ:[豆を持って通りかかる]これでよしと、では後ほどお家で。
ロズ:ちょっと、あなたなら婦人科医とデートする?
ダフネ:やーだ、しないわ。
ロズ:[フレイジャーに向かって]わかった?
ダフネ:歯医者でもしませんよ。一日中人の口の中に手を突っ込んで! それにエディの全身の身体検査を見たら、獣医さんといつかデートしようって気もなくしました!
ダフネが出て行くと同時に、ガラスを叩く音がする。
場面転換
ラジオ局。
フレイジャーの話はロズが制御室のパーティションをバンバン叩いて中断。ロズは「何でその話をするのよ?」と書いたカードを掲げている。

フレイジャー:おっと、[クスクス笑う]いずれにせよ、ちょっと脱線しすぎましたね。元の話に戻ると——その日、私が帰宅したときも、エディは元気になっていませんでした。
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第3場-フレイジャーのアパート

エディがマーティンの椅子に寝そべっている。マーティンは床に座ってエディの面前でふかふかニンジンを振っている。
マーティン:見てごらん、エディ、ニンジン君だよ! 食べると目が良くなるよ、お前も遊んでごらんよ!
フレイジャー:[登場し、その光景を見て]父さん。
マーティン:何だ?
フレイジャー:何してるの?
マーティン:これか、ひとっ走りしてエディにおもちゃを買ってきてやったんだ。元気が出るかもしれないと思ってな。ほらエディ、見てごらん。[ふかふかハンバーガーを見せる]ハンバーガーだぞー! ジュウジュウ、ウマウマー。一口食べたいよな? 食べたくない? よーし、わしがもっと食べちゃうぞー。[ハンバーガーになった真似をして]ボクの横っ腹に噛みついちゃイヤだよぉ。
エディは反応しない。マーティンはあきらめる。
マーティン:こんなに悲しそうな様子を見たことがあるか?
フレイジャー:いや、ないね。
玄関のベルが鳴ってダフネが登場。
ダフネ:あ、ドクター・クレインですよ。あの方の犬を連れてくるって言ってらっしゃいました。
マーティン:やめてくれ、4本足のマリス!
フレイジャー:父さん、頼む。ナイルズの前であの犬をそんな風に呼ばないで。ギョッとしちゃうよ。
マーティン:するもんか。あの犬は、行動といい吠え方といいマリスそっくりさ。ときどきものを食うのがマリスと違うくらいで、まるで生き写しだよ!
ダフネがドアを開けるとナイルズとホイペットの「ガール」がいる。
ダフネ:いらっしゃい。
ナイルズ:やあダフネ、みんな。エディが落ち込んでるって聞いたんで、ガールフレンドが来たら元気が出ると思ったんだ、ごらん!
マーティン:ありがたいことだが、ナイルズ、もう公園で本物の犬でやってみたんだよ。うまくいかなかったがな。
ナイルズ:うちのガールが魅力全開したらもうそんなことは言えないぞ。[ガールに向かって]エディの所にお行き。行けったら。[行かない]わかった。
ナイルズはガールを抱き上げてエディの顔に押しつけながら「さあ腕の見せ所だ」と呪文のように繰り返すが、何も起こらないので、フレイジャーは笑い、ダフネは目をクリクリさせ、マーティンはしかめっ面をする。
ナイルズ:さあそこだ。[何も起こらない]ほらほら、もう魔法が効いてきたぞー。いい子だ。
犬は逃れて廊下に走り入り、マーティンの部屋に逃げる。
ナイルズ:戻りなさい、ガール。たった今戻ってこい! [何も起こらない]よおし。[ガールを追ってぴょんぴょん跳ねて行く]
マーティン:ああ、エディ、お前がそんなだとわしも辛いよ。
ダフネ:ムーンおばあさんのシュガー・ビスケット、どう?
フレイジャー:エディに君の言葉がわかるって本当に思ってる?
マーティン:何を言うか、わしゃどこかで読んだぞ、犬は400くらい言葉がわかるって。だとしたらエディくらいお利口さんなら1000はわかってるよな。
フレイジャー:頼むよ、父さん! マーティン:エディは、お前が認めてるよりもずっとずっとたくさんのことをわかってるんだ。
ダフネ:そうですよ。だってね、ちょうど昨日私言ったんです、「エディ、鍵を無くしちゃった」って。[エディは見上げる]そしたらエディが私を見上げて…
エディから見た視野。ここからエディの目から見た世界が映し出される。映像は白黒になる。エディにはダフネが高い声で「ミニミニ」と言い、フレイジャーが低い声で「ヤッダヤッダヤッダ」と言い、マーティンが「ヤカヤカヤカ」と言っているように聞こえている。ただ、誰かが「エディ」と言うたびにはっきりと聞こえる。その後通常の光景に戻る。
フレイジャー:…自分の名前かぶうぶう言う声っていう単純な事実以外は何もわからないんだよ!
ナイルズ:[ガールは連れずに登場]さて、危機は去った。ガールはちょっと休む必要があっただけなんだ。アイマスクを忘れずに持ってきてやってラッキーだったよ。
マーティンはフレイジャーを一瞥するがフレイジャーは抑える。
マーティン:ますます悪い、犬の精神分析医ってやつを頼まなきゃいけないかもな。
フレイジャー:父さん、マジ?
マーティン:だってどうしようもないだろ、やることは全部やったんだ。
ナイルズ:犬の精神分析医?
フレイジャー:正直言って、父さん、そりゃまさにインチキってやつだよ!
ナイルズ:とてもじゃないけど人間の心理学を動物の行動に適用するわけにはいかないんだよ。
フレイジャー:まさにその通り。動物は本能で動くが、一方人間は論理付けすることができるんだ。
ナイルズ:そう。
フレイジャー:知的作用をもって思考するものなのさ。
ナイルズ:そう。したがって、人間というものは分析的な心理療法を通じて、… マーティンから見た視野。今度はマーティンの目から見た世界になる。エディの視野と似ているがカラー映像。ナイルズとフレイジャーがわけのわからない話をし、マーティンに処理できるのは「父さん」という言葉だけ。
溶暗/場面転換

第4場-ラジオ局

フレイジャーがボタンを押し、ラジオ番組の場面に戻っている。
フレイジャー:1回目のコマーシャルをお聞き下さりありがとうございます。さてアリスさんとお話ししていたわけですが、アリスさんは今日は憂鬱症になってらっしゃいます。彼女を助けるために私自身の生活から一つのお話をしているところです。アリスさん、今までの所でご質問は?
アリス:[声のみ]あのー、ロズと婦人科のお医者さんはどうなったんでしょう?
ロズはフレイジャーを睨む。
ロズ:フレイジャーったら、話の一番恥ずかしい所を話しちゃいましたが、面白いことがあったんです…
場面転換、カフェ・ネヴォーサ。
スティーヴン・カーゲンとロズが前方のテーブルでコーヒー・デートをしている。

ロズ:[カーゲンに]やだ、ホント! あなたもレイクブリッジ・キャンプにいたの。何年生のとき?
フレイジャー:[声のみ]ロズ!
場面転換、ラジオ局。
フレイジャーは話に割り込む。

フレイジャー:ロズ、私たちはこの方を助けようとしてるんだ。君の無駄話を聞いている時間はない。[続けて]さて、私の父はとうとうどうしてもと言って犬の精神分析医に予約を取り付けました。この分析医は初回の面接に家族全員がいなきゃいけないって言ったんです。
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第5場-フレイジャーのアパート

フレイジャー、ダフネ、ナイルズ、マーティンがセットにいる。
マーティン:バカに遅いな? もう来ていい頃だが!
フレイジャー:きっと「取ってこい!」に対する怖れに取り組むグループ面接が長引いてるんだろ。
フレイジャーとナイルズは笑う。
マーティン:[杖を振りながら]もういい、二人とも黙れ!
玄関のベルが鳴ってマーティンが応対するとそこにはドクター・ショーが立っている。ドクター・ショーは、年配の禿げた男で、つまり典型的な実直型の人。
ショー:こんにちは、ドクター・アーノルド・ショーと申します。
マーティン:やあ先生、マーティ・クレインです。お入り下さい。こちらはダフネ・ムーン。
ダフネ:こんにちは。
マーティン:それから息子です、フレイジャーとナイルズ。[二人は挨拶する]それからこれが、ご覧の通り、患者です。
フレイジャー:父が申し上げたか存じませんが、弟と私もたまたま精神分析医でして。
ショー:それは素晴らしい、同業者とご一緒させていただくのをいつも嬉しく思っているんです。
ナイルズ:すみません、「同業者(コリーグ)」っておっしゃいました? それとも「コリー」って? ナイルズとフレイジャーは笑うが二人以外は笑わない。
フレイジャー:冗談ですよ。
ショー:[簡単に]うまい、実にうまいですな。では、始めましょうか? [エディに]こんにちはエディ、ドクター・ショーだよ。君のことを知って、治すのを手伝いに来たんだ。悲しいんだね? 悲しくても大丈夫だよ、私も悲しいことがある。 今から1時間、君がなぜ悲しいのか考えてみよう。
フレイジャー:犬に1時間かけたら、7時間分請求できますね!
ショー:すみません、真剣に考えて下さっていない方がいるような感じを受けますが。
フレイジャー:謝ります、ただ何もかもちょとバカげて見えるんですよ。
ショー:えっそうですか? バカげている? 実を言いますと、たった今までビーグル犬マクファーレンのお葬式に参列していたところだったんですが、その飼い主も同じように考えていましたね。
ナイルズとフレイジャーは笑い出すが、マーティンがまた杖を振る。二人は謝って、ドクターは続ける。
ショー:まず、犬性格テストから入りたいと…
マーティン:うわー!
ショー:私が開発したんですが。最初の質問群は、あなた方は、エディが人間だったとしたら、エディはどのように振る舞うべきだと考えるか、ということを基本にしています。
フレイジャー:なんてこった!
ダフネ:[二人に囁く]シーッ、冗談ではないんですよ! とても真面目な話です。
ショー:人間エディがディナー・パーティーを開く計画を立てたとしたら、何を出すでしょう?
マーティン:ミートローフだね。でもただのミートローフじゃなくて、上に滑らかなトマトスープがかかってるヤツだ。
ナイルズ:でもきっとうまくかかってないかもね、オーブンの取手に届かないもん!
ダフネ:[]シャケの煮たのですね。理由はわかりませんけど!
ショー:面白い。第二問です:人間エディが最初に話す言葉はなんだと思いますか?
フレイジャー:できれば「ミントガムちょうだい」だといいな![笑う]すみません、すみません。結構、次のご質問を。
ショー:人間エディの好みのオーデコロンは何だと思いますか?
マーティン:「ロック・レヴェルヴァ」だな。ちょっと癖があるんだが、ヤツなら着こなすだろう。
ダフネ:[]グレイ・フランネルですね。理由はわかりませんけど!
フレイジャー:コロン? トイレ水の方が好きそうだけどね!
ナイルズ:そういえば好きな飲み物も同じ答えだね!
ナイルズとフレイジャーは笑いながら軽くハイタッチする。
ショー:強い敵意を感じますが。
フレイジャー:すみません、でも意味がわからないんですよ。それでエディの何がわかるんですか?
ショー:問題はエディについてではなく、あなた方全員について知ることだったんですよ。こう申し上げてよければ…[兄弟を見て]目的は達成しました! さて、エディを一対一で診察する頃合になりました。どこかお部屋をお借りしてもいいですか?
マーティン:もちろん、私の部屋を使って下さい、右の二番目の部屋です。
ショー:エディ、君についていこう。ちょっと時間がかかるかもしれない。
エディは退場し、ドクターがついていく。出し抜けに
ダフネ:If エディがビートルズのメンバーだったら、ジョージだと思いますね。理由はわかりませんけど! [退場する]
フレイジャー:でもダフネは一度も断言はしなかったね。理由はわかりませんけど!

第1幕了



第2幕

ハッピー・トーク

第1場-フレイジャーのアパート


フレイジャー、ナイルズ、ダフネ、マーティンはたむろしてドクター・ショーとエディが診察を終えて出てくるの待っている。
フレイジャー:言わせてもらうが、この一時間、奴らはあそこで一体何やってんだ?
マーティン:まあ、多分、エディに話しかけているだけだよ。エディがたまたますごく複雑で面白いんだ。
フレイジャー:あっそ、じゃ今度エディがディナー・パーティーを開いたら僕がエディの隣に座るって覚えといて。
ナイルズ:じゃ覚悟しとかなきゃ、エディは例のミートローフを舐め回すようにチェックするぞ!
ドクター・ショーとエディが部屋に入ってくる。エディはマーティンの椅子のいつもの場所に戻り、相変わらず落ち込んだ様子。
ショー:さて、診断を下しました。
フレイジャー:ついに来ました、スモークを!
ショー:エディは本当に落ち込んでいます。あなたがおっしゃったように、エディの常日頃の生活に変わりがなかったのなら、考えられるのはただ一つ、エディは他の誰かの悲しみに反応しているんです'。皆さんの中で落ち込んでいる方はいませんか?
フレイジャー:私じゃないね。
ダフネ:えー、私も違います。
マーティン:わしも違う。
ナイルズ:[ニヤリとして]僕は歩く上機嫌だよ。
ショー:エディはどこかで憂鬱にかかったんです。大事をとって、皆さん彼の前での態度に気をつけていただきたい。明るく楽しい調子で話すようにして下さいね。[エディに]さよなら、エディ。二、三日したら電話でエディの様子を知らせて下さい。
マーティン:[楽しい調子で]はーい、先生どうもありがとう!
ショー:慌ただしくてすみません、四時に動物園での約束があるので。ニコリともしないハイエナがいるんです。[続けて]ほら、私も冗談言うんですよ!
ドクター・ショーは退場してエレベーターに乗る。入れ替わりにロズが慌てふためいて走りこんでくる。
ロズ:ちょっと!
フレイジャー:おいおいロズ、どうしたの?
ロズ:もう死にたい!
マーティンが慌てて調子を変える。
マーティン:[楽しげに]おーいロズ、エディの前ではやめとくれ!
ロズ:は?
ダフネ:[楽しげに]さっき帰った男の人が犬の精神分析医だったんでーす。
マーティン:[楽しげに]でその医者がエディの周りではみんな明るくしてるのがいいって言ったんだよー。
ナイルズ:[楽しげに]で教えて、どうして死にたいのかなー?
ロズ:[楽しげに]あのねっ、ドクター・カーゲンとデートしてたらあんまりうまく行ってたもんで、彼の仕事のこと、忘れかけてたんだ。
マーティン:[楽しげに]仕事はなーに?
フレイジャー:[楽しげに]婦人科医。
マーティン:[楽しげに]ひでぇ、この話、わしは勘弁だよーん。
マーティンはエディを連れて自分の部屋へ去ったので、他の皆は普通の調子に戻る。
フレイジャー:わかった、ロズ、それで?
ロズ:で、私たち、彼のアパートに上がって、彼がワインを注いでくれたの、それで… ねぇ、スペキュラって知ってる?
場面転換。ラジオ局。
フレイジャーがこの話をしている。

フレイジャー:どうやら彼は婦人科用の医療器具の熱心な蒐集家だったらしいんですね。
ロズがブースに入ってきて彼の頭の上から水をぶちまける。
フレイジャー:おっと、ロズから時間切れのサインが出ました。では、話を端折って続きに行きましょう。
回想場面へ

第2場-フレイジャーのアパート。

ナイルズがピアノを弾き、フレイジャーは自分のシェリーをついでいる。ダフネはシアトルの通りを望遠鏡で眺めている。ロズはソファに座り、マーティンは缶ビールを取ってきたところ。
フレイジャー:言わせてもらえば、あの男の理屈はまるでたわごとだよな! 不幸になる理由がある人間がここにいるか?
ダフネ:ええ、でも、エディのためじゃなければ言わなかったことですけど、[ナイルズに]比較的ってことで言えば、ドクター・クレイン、奥様と別れて暮らしていたり何だりで一番落ち込んでて不思議なさそうですよ。
ナイルズ:えっ? 僕は不幸じゃないよ。そもそもここに住んでないし。
ダフネ:まあ、ドクターは私よりもここにいますよ。
フレイジャー:言いにくいことだが、父さん、悲しみをまき散らしているとすれば、父さんじゃないかい。
マーティン:わしが? フレイジャー:うん。
マーティン:お前こそ一年たっても彼女もいないじゃないか。結婚が二回もダメになったのは言わずもがな。
フレイジャー:言っちゃってるし。もっとも、僕も完全にハッピーとは言えないかもね。ハッピーなわけないよ。息子とは西と東に別れてるし、彼女はいない。もしかして、エディを悲しませてるのは僕?
ダフネ:そんな、そんな、お一人で責任かぶらないで下さい。自分の生活を振り返ってみると楽しいことばかりってわけでもありません。ここ数年でやっと捕まえた彼氏にフラれた上、大事件と言えば、何ヶ月も前に髪を切ったのに誰もひとことも何も言ってくれないってことぐらい。
皆がすごくいいよと言い出すが、ダフネは手を振ってもうたくさんという身振り。
ダフネ:もういいんですったら。
ナイルズ:ダフネ、君がさっき言ったことは多分正しかった。僕もあまり幸せじゃない。
マーティン:わしだってさ。へスターが死んで以来、わしの生活には楽しみがなくなった。
ロズ:考えてみたら楽しくなることなんて何もないんじゃない? つまり、エディとは関係ないんだけど、フレイジャーが私とやりとりしているうちに何か拾っちゃったとか?
ナイルズ:彼だけじゃないかも…[then:]ああ、僕はあまりにも落ち込みすぎだ!
フレイジャー:僕らの不幸の織物の編み目は何てゆるいんだろう…一、二箇所ちょっと引っ張ったら僕らの日常生活が本当はどんなに空虚かがあからさまになる。
ナイルズ:そして空虚な僕らの夜…孤独と死の思いだけが道連れなんだ。
マーティン:お前もか? わしだけだと思っていたよ。
フレイジャー:誰もが考えることさ。
マーティン:全く動かないで横たわって息を止めてさ、埋葬された気分になってみたりする?
フレイジャー:いやそれは父さんだけ。
ロズ:私が死ぬ時は100歳の誕生日だといいと思うの。マウイ島の浜辺の家で、それで私の旦那はあんまりショックで大学を落第しちゃうの。
ダフネ:私、前、占い師に言われたことがあります。その日が来たら、あんたは頭がおかしくなって、包丁で家族を全員殺した後、自殺するんだって。とんでもないことを言うババアでしょ! でもシアトルに引っ越すってのは当たりましたけどね。
マーティン:わしはどうしたいかはわからんが、警察の霊安室でいくつかのことを学んだよ。まず第一に、排水管洗浄剤や殺鼠剤は飲んじゃいかん。斧で自殺するつもりなら一発でやれ!
フレイジャー:まあ、語ったり考えたりすることはできるが、いつどうやってその日が来るかは誰も知らないんだな。
ロズ:今は皆と同じように生きていても、一瞬後はどうなってるか?
フレイジャー:暗闇か、虚無か、死後の生か?
ナイルズ:僕は歴史上の偉人たちに会えるといいなってずっと思ってたんだ。でも、高校時代みたいに、死んだサイコーの人たちが僕と付き合いたがらなかったらどうしよう。[我を忘れて:]モーツァルトは僕には忙しいって言ったくせに、実はシェークスピアやリンカーンと遊びに行っちゃうんだ!
マーティン:お前はまだいいがわしにはたまらんよ。忘れないでくれ、わしの鐘はお前たちよりも先に鳴るんだよ!
皆が頷くのでマーティンは少し居心地が悪くなる。
ナイルズ:そんなことないよ、自分がいつ時間切れになるかなんて誰にもわかりっこないよ。
ロズ:それに、それが遅すぎるってこともないのよ。私のひいおばあちゃんは92歳で死んだんだけど、死ぬ間際に私に言ったの。「あまりにも短い」って。まあ70年代のことだったから、私のスカートのことだったのかもしれないけど。
フレイジャー:「永遠の従者が僕の上着を掴んでニヤリと笑うのを見た」
ナイルズ:TSエリオットだね。
フレイジャー:死んだ。
ナイルズ:「あらゆるものは最後は死に飲み込まれなければならないのか。」
フレイジャー:プラトン。
ナイルズ:もっと死んでる。
フレイジャー:おそらくドクター・ショーは正しかった。多分僕らがエディの憂鬱の原因なんだ。
フレイジャーは背後に手をやって、お尻に敷いていたエディのかみかみ人形の一つを引っ張り出す。フレイジャーは人形を床に放り投げる。
フレイジャー:愚かな動物! 僕らが被っている幸福の仮面の下にあるのはそれだ。
フレイジャーが話している間にエディはかみかみ人形をくわえて楽しそうに遊び始める。皆は気づかない。
フレイジャー:奥深く潜む悲しみに満ちた海。かつては呑気だった気取った世界が砕け散ってしまった-、おそらくは永遠に。
マーティンが状況に気づく。
マーティン:あれっ、エディを見てみろ、元気になったぞ。結局原因は、お気に入りの人形がなくなっちゃってたってことじゃないか?
フレイジャー:ドクター・ショーは結局間違ってたんだな。僕らがきっかけじゃなかったよな?
ナイルズ:本当はエディがきっかけだったんだ。こんなに落ち込んだことはないよ。
ロズ:言わんこっちゃない!
ダフネ:そうね、私も犬だったらよかったのに。元気になるのに小さいおもちゃ一つあればいいんですもの。
フレイジャー:残念ながら僕らはもう少し複雑だね、ダフネ。僕らは「誰がために鐘が鳴る」かを知っているのだから!
少し間があって、突然鐘がチンと鳴る。全員が何の音かを探ろうとする。
マーティン:[恐る恐る]聞こえたか?
ダフネ:あっ、ビスケット!
フレイジャー:ダフネ、「ビスケット」ってクッキーのこと?
ダフネ:そうです!
マーティン:いい匂いだ。
ナイルズ:オーブンで焼きたて…
ロズ:アツアツですごくおいしい…
ダフネ:そうですよ、新鮮なミルクも添えましょうね!
フレイジャー:そうだ、アイスクリームもあったぞ!
皆よろこびに輝いてキッチンへ去る。
溶暗/場面転換

第3場-ラジオ局


フレイジャーは話を終えた。
フレイジャー:ですからアリス、私たちのうち一番幸せな人間でも、探せば不幸の種はあるものなんです。探さないようにしましょう。私たちの犬の友達からヒントを教わりましょう——好きなおもちゃを自分にご褒美して下さい、それが何であれね。
アリス:それ、すぐやりますわ。ありがとう、ドクター・クレイン、本当に気分がよくなりました。
フレイジャー:ドクター・フレイジャー・クレインでした。行く道にでこぼこがあってもいちいちとらわれないようにしましょう。人生はあまりにも短いんですから。普通の物事に喜びを見出しましょう。つまりこうです、クッキー食べましょ!
彼は傍のボウルからクッキーを取り、放送終了のボタンを押すや否や口に放り込む。しかし彼は大声をあげてクッキーを床に落としてしまう。
フレイジャー:わっ、クルミだ、歯が欠けちゃったよ! 歯医者行かなきゃ、でも歯医者にフロスしてないって言われるし、唇が腫れてきたよ——もう、俺の人生ムカつく!
ブリーフケースを持って退場。

第2幕了


エンドロール

カフェ・ネヴォーサ。
女性が座ってドクター・カーゲンと話している。ドクターは立って飲みものを取りに行ってくれる。
彼が席を外している間に ロズが女性の肩をトントンと叩き、ドクターのちょっとした秘密を告げる。女性は慌てて立ってロズと出て行く。カーゲンが戻るとそこには誰もいない。