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[4.11] Three Days Of The Condo

[4.11] コンドーの三日間[参考 "Three Days of Condor"]


第1幕


第1場-フレイジャーのアパート


マーティンとシェリーがソファに座って新聞を読んでいると、ダフネが自分の部屋から登場。
ダフネ:さて、お昼を買いに行ってきます。特にご要望はありますか?
シェリー:まあ、いえいえいえ、あなたが選んでくれたものでいいわ。
ダフネ:わかりました。じゃあすぐに戻ります。
シェリー:本当に可愛い子。あなたは本当に可愛いわ!
ダフネは出て行く。
シェリー:あの子ずっと出かけないかと思ってたわ!
マーティン:ああ。ようやく少しの間でも二人きりになれてよかったよ。
シェリー:ええ、そうね?
マーティン:おいで、お前。
マーティンとシェリーは情熱的にキスをし始める。するとエディが走って登場し、シェリーの顔を舐め回す。
マーティン:こら、戻れ。さあ、おいで、おいで。ついて来い、エディ。[立ち上がって]こっちだ。
シェリー:あっちよ、行きなさい。
マーティンは化粧室を開けてエディを中に入れる。
マーティン:そこにいろ。指定席が用意してあるぞ。楽しいぞー![扉を閉める]でどこまで行ったっけ?
シェリー:もう、いらっしゃい、悪い人。
マーティンとシェリーはまたキスを始めるが、ダフネがナイルズやフレイジャーと共に食料品袋を持って入ってくる。
ダフネ:さあ、グルメショップからお持ち帰りを持ってどなたかがたった今お帰りですよ。
マーティン:そりゃよかった。
マーティンとシェリーは喜んだふりをするが、苛立って互いに見合う。
シェリー:子供たち、こんにちは。おめかししちゃって素敵じゃない。こっちに来てシェリーおばさんに思いっきりチューしてちょうだい!
ナイルズ:たぶん部屋のこちら側から親しみの合図だけで十分かと。
ナイルズは手を振ってみせる。
シェリー:ナイルズ、まったく恥ずかしがり屋さんね。お兄さんはそうじゃなくてよかったわ。さ、フレーズ、一つお願い。[フレイジャーはしぶしぶする]
フレイジャー:[顔をしかめて]エディに舐められました?
シェリー:ええ。
フレイジャー:やっぱりね、あなたの香水に微量のスノーセージ[訳注:ドッグフードの銘柄]が混じってるように思ったんで。
シェリー:さ、あなたたち二人は買いものに行ってたの?
フレイジャー:まあ実際には、アンティークあさりです。最高に素敵な日本のドアノッカーを見つけたんですよ。これを飾った家には安らぎと和やかさがもたらされるとか。
フレイジャーは見せる。
シェリー:あら、こんなに上品な東洋風のノッカーを見たのは「女帝チョウの上海レビュー」以来よ!
マーティン:[バカみたいに笑う]彼女、すごいだろ? 彼女には気品と同じくらいユーモアもあるんだ!
ナイルズ:異論はないよ! ところで、兄さんがそのノッカーを取り付けたいんなら、うちの管理人だったギーに連絡してあげるよ。[「ギー」とフランス語風に発音する]
フレイジャー:ギー?
ナイルズ:違う、[同じ発音]ギー!
フレイジャー:ギー?
ナイルズ:違うったら、喉の奥から、[同じ発音]ギー。
フレイジャー:もう、どうでもいいよ! それに言っとくけど、ドアノッカーが取り付けられないほど間抜けじゃないね。[笑う]
フレイジャーは扉を開けて扉の上の方にノッカーを当ててみる。そしてじっと見ている。
マーティン:たぶんねじ回しがいるよな。
フレイジャー:ちょうど今取りに行こうと思ったところなんだ。
フレイジャーは部屋の中央に歩いていくが、立ち往生する。
マーティン:工具引き出しにあるよ。
しかしフレイジャーはまだ見回している。
マーティン:あの何だかでかいお茶の道具の下の引き出しだよ。
フレイジャー:父さん、あれはベラルーシのサモワールなの! まったく、何年ここに住んでるんだか?!
フレイジャーがキッチンに出て行くと、ダフネが盛り付けた料理を持って入ってくる。
ダフネ:みなさん。お昼ごはんですよ。
シェリー:ああそうだ、仕事に行く前に用事があるのを思い出したわ。じゃあね、ナイルズ。[ナイルズの方に行く]心配しないで、キスするつもりじゃないのよ、あなたが恥ずかしがることはわかってるから。待って、こっちにいらっしゃい、ほっぺに何かついてるわよ。
シェリーは指を舐めて濡らし、ナイルズの顔を拭う。
シェリー:気のせいだったわ、ほくろなのね、自分で見てみたらいいわ。
ナイルズ:じゃあ、大事をとって除去しときます。[シェリーの唾を拭う]
フレイジャーがねじ回しを持って入ってきて、自分の飾り棚の装飾品の一つに注意を払う。
フレイジャー:ダフネ、どうやら今朝拭き掃除をしてくれたときに、このオブジェは正面じゃなくて少し斜に置いてあったのを忘れたようだね。[回転させる]
ダフネ:すみません、ドクター・クレイン、書いて下さった見取り図を見ずに拭き掃除をしちゃいけませんでしたね。
シェリー:ねえフレイジャー、あなたアンティーク好きだってのね、じゃあうちにあるちょっとしたプレゼントを持ってくるわ。ランプなんだけど、2匹のカエルがキスしてる形なの。それで灯りをつけると2匹の心臓が光るのよ。いつ持ってきたらいいかしら?
フレイジャーは困惑する。
ナイルズ:僕がいるときにしてもらいたいですね。
シェリー:明日持ってくるわ。じゃあね。[マーティンと共に退場]
フレイジャー:ダフネ、金槌持ってきてくれる?
ダフネ:ドアノッカーにはねじ回ししかいらないと思いましたけど。
フレイジャー:いや、そのカエルランプがここに来たときに備えて用意しときたかっただけ。
その間、マーティンとシェリーはエレベーターの傍でキスをしている。
シェリー:また後でね、電話するわ。
マーティン:わかった、じゃあ。
フレイジャーがノッカーをねじで留め始めたときに扉が開く。年配の白髪頭の女性が、エレベーターの中に立っており、シェリーが乗る。
マーティン:おや、こんにちは、ミセス・ランガー。
ランガー:ミズです!
マーティン:ああ、そうでした、ミズ…
扉が閉じかけている間にランガーはフレイジャーが何をしているか覗き見る。
マーティン:ミ…じめな牛ばばあ![笑ってアパートに入る]ナイルズ、今夜はオペラに行く日なんだろ?
ナイルズ:そうだけど?
マーティン:いやちょっと知りたかっただけ。ってのはさ、シェリーに雰囲気のいいおいしいディナーをご馳走してやりたいんだが、彼女の家ではそれができないんだ。あそこの猫にアレルギーでさ、かと言ってここではプライバシーがないし。
ナイルズ:それ以上言わないで大丈夫、父さん。僕の独身アパートはお嬢さんをもてなすのに完璧な場所だよ。ただ気をつけてほしいのは、必ずコースターを使うこと、カーペットの張ってある所では物を食べないこと、それから美術書を見た後は本を閉じといて。背表紙に皺がよるからさ!
フレイジャー:確か「プレイボーイ・マンション」にも同じ規則があったよ。
フレイジャーは遂に自分のDIY作品を完成させて下がって見る。
フレイジャー:よし、うまくついた。そんなに難しくないじゃないか。じゃあ明日の朝は化粧室の洗面台の漏れてるとこに突撃だ。[扉を閉める]
ダフネが大笑いし始めるが、フレイジャーに睨まれてやめる。
ダフネ:あっすみません、ジョークだと思ったんです。
誰かがドアノッカーを使う音がする。
フレイジャー:おっ! ノッカーの就任初ノックだぞ。
フレイジャーが扉を開けるとノッカーにメモが貼り付けてある。彼はそれを取る。
フレイジャー:あれ、何だこれ?[読む]「貴方の無許可のドアノッカーは廊下の装飾に関するマンション規則に違反しています。直ちに取り外して下さい」
ダフネ:ああ、いつものミセス・ランガーのノーノーメモですね。あの人には耐えられません。マンションの管理組合長だからって理由だけでこのマンションが自分の王国だみたいに振る舞うんですもの。何でもかんでもぴったり彼女のお気に召す通りにしないといけないんです。
フレイジャー:そうか、ダフネ、いばりんぼの小言屋は僕も誰よりも嫌いだけど、でも…ダフネ、斜めだ、斜め![別のオブジェを回す]でも、規則は理由があって存在しているんだ。ノッカーを取り付ける前に承認を得なかったのは明らかに僕の落ち度だ。
ナイルズ:今晩マンション管理組合総会があるってお知らせをロビーで見たよ。この話を提出したいんなら。
フレイジャー:完璧だ。民主主義社会に生きているんだからその枠内で働きかけるよ。僕の魅力と流暢な演説で間違いなく皆を納得させられるさ。
ダフネ:どうですかね、あの人たちはすごく手強いかもしれませんよ。
フレイジャー:へっ、つまらん! 最高裁で弁論するわけでもあるまいし、ただ管理組合で話すだけだよ!
マーティン:[傍白]あいつの思い通りにできる頃にはそうなってるかもな!
フレイジャー退場。
溶暗


第2場-マンション管理組合の総会


住人が集まってミズ・ランガーの話を聞いている。ランガーは前方の机に座っており、他に管理組合幹部二人がいる。ランガーが話しているときにフレイジャーが後方からそっと忍び込んで、車椅子の住人モリーの隣に座る。
ランガー:多数の造園業者からの入札を慎重に検討した結果、ジョーダン造園に発注することにしました。
フレイジャー:[モリーに]すみませんね、そんなに遅刻してないですよね? 発言したいことがあるんです。
モリー:私もなんです。新しい議題に移るところですよ、ちょうどよく。
フレイジャー:よかったよかった。重要な案件がありましてね。
モリー:あら、でしたらお先にどうぞ。
フレイジャー:そうですか、すみません。お宅様は何のお話で?
モリー:マンションの外スロープをもう少し緩やかにしてもらいたいの。転がって車道に突っ込んじゃいますから。あなたは?
フレイジャー:[気が引けて]あっ、そういうお話なら、お先にして下さい。
ランガー:フレイジャー・クレイン、私の話の最中におしゃべりですか?
フレイジャー:あっ、そうなんです、すみません、ミズ・ランガー。新しい議題をお願いしたいんですが遅すぎたか聞いてただけなんです。
ランガー:ちょうど頃合いでしたよ。言ってごらんになっては?
フレイジャー:[モリーに]すぐ済みますから。[立って発言し始める]えーっと、今日、お許しなく新しいドアノッカーを取り付けました。で、釈明になりますが、乗り気になりすぎたと言ってもみなさんを軽視したわけじゃなくて、ドアノッカーがあんまり素晴らしいからなんです、絶対にわかっていただけると思いますが本当に見事なものなんです。[管理組合の幹部に写真を配る]公共の場所に目障りなものを置いちゃいけないという規則があるのはわかってます、でも皆さんにお聞きしたいのです、その規則はこんなに見事なものにも当てはまるんでしょうか? [参加者にも写真を何枚か配る]よろしかったらこれどうぞ。精神が高揚しこそすれ害のあるものではありません。うちのドアの前を通ったら、このノッカーを見て急にちょっと気分がよくなっちゃう。なぜかはわからないんですがね。ちょうどその人が見知らぬ人とすれ違ったときににっこりする…そしたら次にその人が、階下に降りて…、ひょっとしたら、ゴミを拾うかもしれないし、庭に木を植えるかもしれないし、炊き出しに奉仕するかしれませんよ? 静かな湖面にわき立つさざ波の如く幸せが広がっていくのです。ただの飾りじゃないんです、あえて言えば新たな、そしてもっと洗練された世界への扉を叩くチャンス、それを考えていただきたいのです。[写真を回収する]ご静聴ありがとうございました。
参加者は賛同したように見える。
ランガー:少しお時間を下さい。
フレイジャー:どうぞ。
管理組合幹部が数秒間協議。
ランガー:却下します! 24時間以内にノッカーを取り外して下さい。世界平和のためか知りませんけど。
フレイジャー:すみません、でも…
ランガー:まだ喋りますか? 却下です! お座りなさい!
フレイジャー:でも話し合いされていません、みんなの発言すら認められていません。
ランガー:この人を黙らせるアイディアがあったら発言を求めたいですね!
フレイジャー:もう結構! 民主主義の伝統に則った公平な発言の機会があるものと思ってわざわざ出てきましたが、そこにいたのは正義よりも権力の行使がお好きな暴君でした! 私は帰りますが、ミズ・ランガー、あなたが歴史の灰の山に重なった暴君の列にいずれ加わると思えば気も休まるというものです!
フレイジャーは聴衆の喝采を浴びながら出て行く。が、一瞬の後にまた入ってくる。カバンを置き忘れてドギマギ。
フレイジャー:見なかったことにして下さいね。
カバンを拾って扉まで行く。ところが持っていた書類をぶちまけてしまう。
フレイジャー:また後で取りに来ます。
溶暗/場面転換

ディープ・イヤー、ノーズ、スロート

第3場-エリオット・ベイ・タワーズの駐車場


フレイジャーが自分のスペースに車を入れて降りてくる。ドアに鍵をかける。駐車場の暗い中を階段に向かう。彼の前に一台の車が来てヘッドライトで彼をまともに照らす。誰かわからない男が降りてきたがヘッドライトの前に立ったのでフレイジャーには彼のことが見えない。
男:ドクター・クレイン。
フレイジャー:私ですがどなた?
男:一友人だ。[フレイジャーは一歩踏み出す]待て、離れて。
フレイジャー:どうして姿を隠すんですか?
男:そんなことは重要ではありません。重要なのは、夕べあなたがミズ・ランガーと恐れず対決したことです。
フレイジャー:あんまりうまくいきませんでしたけどね。
男:そんなことはありません。このマンションの住民は皆彼女を恐れています。それでも彼女と戦う仲間がいる、少数だが勇敢な一団の反対者です。貨物エレベーターの傍の新しいドアマットに気づきましたか?[フレイジャーは頷く]あれをやったのは私たちなんです!
フレイジャー:そりゃ素晴らしい。
男:次の選挙で彼女の対抗馬になる候補者になってもらいたいのです。
フレイジャー:それはありがたいことですが、しかし…
男:あなたは我々の唯一のチャンスなんです、ドクター・クレイン、彼女を打ち負かさなければなりません。[我を忘れて]あいつは悪だ! 1704号室のヘッケルさんはマンションの管理費を二日滞納したら、あの女はシャワーの水圧を下げやがった。とうとう彼は亡くなりました。
フレイジャー:水圧が下がったせいで?
男:いや、確か猟での事故でしたが。しかし、彼は人生最後の数ヶ月というもの、髪からトリートメントをきれいに洗い流せずに過ごしたんですよ。あの女を打ち負かすカリスマ性と勇気を持っているのはあなたしかいない。
フレイジャー:そんなもんですかね、でも、…
男:今すぐ決めろとは言いません。ただ考えてみると言ってもらいたいだけです。
フレイジャー:わかりました、しかしなぜ姿を見せてくれないんです?
男:今トイレをリフォーム中だからだ! あなたと話しているところをに見つかったらあの女はウォシュレットを絶対取り付けさせてくれない。私のことは「一関係者」と思ってくれ!
「一関係者」は車に乗って走り去る。フレイジャーはナンバープレートに「DOCDORF」と書いてあるのに気づく。
フレイジャー:バニティプレートがなきゃよかったのにね、ドクター・ドルフマン!

第1幕了



第2幕


第1場-フレイジャーのアパートの建物


そのびっくり会見の直後。フレイジャーはエレベーターで上のボタンを押すと、ナイルズが来る。
ナイルズ:フレイジャー、待って。
フレイジャー:おっ、やあ、ナイルズ。[扉を開けてやる]な、ナイルズ、今駐車場ですごく妙なことがあったんだ。
ナイルズとフレイジャーは上がっていく。
ナイルズ:ごめん… 父さんは今うちにいる?
フレイジャー:うん、僕の知る限りではね。
ナイルズ:やっぱりね。
フレイジャー:何で? 何か困ることでも?
ナイルズ:それがさ、夕べ、父さんをうちのアパートに呼んだのさ。僕が「椿姫」に行ってる間にシェリーと二人っきりでロマンチックなディナーを過ごしてもらえるようにね。で、椿姫はそりゃひどいもんでさ。「ああそは彼の人か」のアリアでソプラノがハイEフラットを出し損ねて、救われなくなっちゃった! あんまり嫌になったんですぐ出て、車で家に戻って部屋に入ったんだ、そのとき父さんとシェリーがそこでやってたことを見て、僕が自分でそのEフラットを出しちゃったよ!
フレイジャー:つまり、二人は…
ナイルズ:そういうこと!
フレイジャー:うわ! それでお前どうしたの?
ナイルズ:長椅子を引き寄せてオペラグラスを出して…、ってわけあると思う? 扉を叩きつけて逃げたよ。あんなに恥ずかしい思いをしたことなかったよ。とてもじゃないけど父さんの顔をまともに見られない。
フレイジャー:ナイルズ、お前がすべきことはただ、あっさり大人の会話で紛らせることだよ。あのキャビン事件の後、マリスと僕の間に起こったことを再現させたかないからね。マリスがシャワーを浴びてる所に僕が入ってしまった事件さ。ひどかったよ、何ヶ月も避けられて気まずくて。
ナイルズ:[ショックを受けて]ちょっと待って? マリスの全裸を見たの?
フレイジャー:心配するなよナイルズ、湯気モウモウの風呂場で一瞬見えたって以上のことは本当にないよ。濃い霧の中で白樺の苗木を見たって方が近いよ。
ナイルズ:人生って不公平だな! 兄さんは僕のマリスの夢のような姿を見るし、僕は父さんのどエラい場面を見る!
フレイジャー:ま、「参ったな」ものさしでは同じ目盛りってとこさ!
エレベーターが止まって扉が開くと、ロズがフレイジャーのアパートの外で待っている。
フレイジャー:あれ、ロズ、いたの。
ロズ:土曜日に仕事をさせた上にここで待たせたお詫びがそれ?!
フレイジャー:引き止められちゃったんだよ。
アパートに入る。
フレイジャー:ロズ、とんでもないことがあったんだよ。下の駐車場にいたらさ、突然ヘッドライトで目くらましにあったんだよ。そしたら影から謎の男が出てきて、僕にマンション管理組合の組合長に立候補しろって言ったんだ。
ロズ:ワインクラブにいたんでしょ?!
フレイジャー:違うって。本当にあったことなんだ。
ナイルズ:本気じゃないよね? 役員なんてやったことないじゃない。
フレイジャー:お前は覚えてないのか、高校の頃、僕はボキャブラリークラブの「最高お偉方」を二学期務めたんだぞ!
ロズ:聞いて、フレイジャー、その仕事は悪夢よ。間違いないわ。例えば生ゴミディスポーザルをほしいって人がいるとするでしょ、そしたらそいつらが昼となく夜となくつきまとって、あんたの郵便受けに生ゴミを放り込んでくのよ、それが、そいつらがほしいものを手に入れるまで続くの。そんな感じよ。
フレイジャー:マンション管理組合で仕事してたっけ?
ロズ:ううん、新型の生ゴミディスポーザルを持ってんの。
ダフネが買い物バッグをいくつも抱えて苦労しながら入ってくる。
ダフネ:みなさんこんにちは。[みな挨拶する]
ナイルズ:手伝うよ。[持つ]
ダフネ:ありがとうございます。この荷物を5ブロックも引きずって来たんですよ。今朝、ミセス・ランガーが例のノーノーメモをよこしたんです。いつもの空きスペースに駐車したってかどで。もう何年も使ってるのに。
フレイジャー:ああ、すまない、ダフネ、多分僕が悪いんだ。明らかにミズ・ランガーの仕返しだ。知ってるだろ、夕べ、ちょっと彼女に絢爛たるレトリックを見せつけて恥をかかせてやったからさ!
ダフネ:カバンの中身を床にぶちまけたことなら聞きました。
フレイジャー:このマンションはアーネスト・アンド・ジュリオ・ガロのワイナリーも羨むほどのぶどうづる[訳注:噂の情報網]が張り巡らされているんだな! ミズ・ランガーに対抗しなきゃならん。機は熟した! あの女は当然の報いを受けるんだ!
ダフネ:おっしゃってること、よくわかります、ドクター・クレイン。先日エレベーターでランガーさんの後ろに立ってたんです、で、ランガーさんの後頭部を見て思ったんです、タイヤレバーでがっちり数発お見舞いすれば、このマンションはずっと居心地のいい場所になるなって。ちょっとこの買い物袋をキッチンに置いてきます。
ダフネは買い物袋を持って退場。
ナイルズ:フレイジャー、そのランガーばあさんってのは相当な権力を振るっているようだね。対抗して出て負けちゃったら?
ロズ:私もナイルズに賛成よ、他の人にやらせときなさいって。
フレイジャー:何だその無関心な態度は。皆が君たち二人みたいに考えたらこの世はどんなものになっちゃうと思う? [ナイルズはダフネを手伝うためにキッチンへ退場]
ロズ:みんな私たちみたいに考えるの。
フレイジャー:それがこの世界のざまさ! 上流階級は腐敗し、選挙民はどいつも利己的な快楽を貪って本当に大事なことには無関心!
ナイルズ:[エクレアを持って登場]このエクレア、予約済み?
フレイジャー:僕んだ、戻せ! [ナイルズは返す]万事がこうならどうなる? ロズ、わからないか? 巻き込まれたくないと思うんなら、物事が思い通りにいかなくても文句は言えないってことさ。
マーティンがエディと共に登場。
マーティン:見てくれ。 エディを連れて貨物用エレベーターに乗らなかったからってメモ2枚くらったよ。馬鹿馬鹿しい、みんな表のエレベーター使ってるのに。ミセス・トーンキストだっていつもフラッフィーって犬を連れて乗ってるぞ。
フレイジャー:[メモを取り上げる]もうこれまでだ、マンション管理組合の組合長に立候補する。困難に立ち向かわなきゃいけない時が誰の人生にも必ず訪れる。臆病者みたいに尻尾を巻いて逃げちゃいけないんだ、今その時が来た。
マーティン:よく言った、それでこそクレインの男だ!
するとナイルズがキッチンから登場してマーティンに出くわす。二人はたちまちそわそわし始め、モゴモゴ言い合う。マーティンはキッチンに逃げ、ナイルズは急いで扉から退場。ロズはキョトンとしてフレイジャーを見ている。
溶暗/場面転換


意思の疎通が欠けていたようだ[参考:『暴力脱獄』"Cold Hand Luke"中の名台詞]

第2場-フレイジャーのアパート


翌日、ダフネがマーティンの椅子に座って「シアトル・マガジン」を読んでいる。
ダフネ:よし、エディ、今よ。
エディがコーヒー・テーブルの上に立つ。口に布をくわえてテーブルを往復し、拭き掃除をする。フレイジャーが登場してまじまじと見る。
ダフネ:いい子、エディ。さ、夕食の準備よ。
エディはキッチンに足早に向かい、ダフネは笑い出す。
ダフネ:エディと私がハマってるちょっとした冗談なんです。
フレイジャー:ひどいもんだ、それでいろいろわかったよ。[傍らのノーノーメモを見る]これは何? また別のやつ?
ダフネ:ああそうなんです、夕べお父様がくらったみたいですよ。エディを貨物用エレベーターに乗せるのを拒んだんだと思います。もっともドクターが立候補なされば全ては変わるでしょうけど。
フレイジャー:おだてるんじゃないよ、ダフネ。今朝僕の車のフロントガラスにこの手紙があったからには勝算があると言わざるを得ないね。抵抗軍からだよ!
ダフネが読む。
ダフネ:[声に出して]「ドクター・クレイン様、マンションの全員に聞いた。当選はあなただ、いい調子だ。匿名子より」。でも「ドクター・ウィリアム・M・ドルフマンのデスクから」って印刷してなければもっと匿名っぽかったですよね?
フレイジャー:ま、だから僕が必要だってことさ。リードしてるからって安心してもいられないよ、今朝書いたスピーチにもっとパンチのある導入部があったらいいと思ってるんだ。でも時間切れだ。… それにミズ・ランガーが僕の開幕の大砲に必要な弾をまさにくれていないとも限らないぞ。投票者が体の不自由な元警官とその忠犬を迫害しようとする女性をどう感じているか、見てやろうじゃないか。
ダフネ:誰でも自分の部屋の扉にろくでもないものを好き勝手にぶら下げられるマンションに住むって素敵ですよね!
フレイジャー:もちろんだ! [続いて]同意はちょっと保留。
フレイジャーが退場すると同時にマーティンがそっと登場。
マーティン:奴は行ったか?
ダフネ:ええ。避けてるわけじゃないんでしょう?
マーティン:いや、まあな。つまりさ、夕べ共同風呂で見つかってマンションの住人が全員その話をしているかと思うと恥ずかしくてさ。
ダフネ:えっどうしたんですか?
マーティン:聞いてないの?
ダフネ:ええ。
マーティン:えっ! じゃ… 気にしないで!
ダフネ:いえいえいえ、ダメです、何のことです?
マーティン:それがさ、夕べ食後に腰がパンパンに張っちまったからマンションの共同風呂に入りに行ったんだ。わかるだろ、ジェットバスが下から当たって水泳パンツが熱気球みたいに膨らむ感じ。
ダフネ:わかりません、でも続けて下さい。
マーティン:でさ、あたりに誰もいなかったからパンツを脱いでデッキに放り投げたんだ。
ダフネ:ってことはつまり…?
マーティン:そ、すっぽんぽんでぷかぷかしてたんだ。で、まあぼんやり座って、泡には勝手にやらせといてたら、突然ランガーの婆さんが現われて。それで俺のパンツを見てすぐその場でノーノーメモを書きやがった。
ダフネ:つまりノーノーメモは、お風呂で裸になってたからってことですか?
マーティン:そ。
ダフネ:まあ、私、エレベーターにエディを乗せたせいだってドクター・クレインに言っちゃいました。どうしましょう、下の総会に行かなきゃ。
マーティン:なぜ?
ダフネ:総会で何をやっているかはわかりませんけど、急にすごい吐き気みたいな感じがするんです!
ダフネは慌てて退場。
マーティン:ミズ・ランガーが俺のパンツを投げてよこしたときに言ったことと全く同じだな。

第3場-マンション管理組合の総会。

住人が集まっていて、フレイジャーもいる。ちょうどランガーが演説を終えるところ。
ランガー:そういうわけで、この一年、マンションがずっと円滑に運営されるように働いてまいりました私に投票するのも結構、あるいは自分の家族すら思い通りにできない人間にマンションを託すのも結構。ありがとうございました。
行儀のよい拍手と共に着席。
フレイジャー:[立ち上がる]マンション所有者の皆さんこんにちは。対立候補の方が私の家族について悪意に満ちた態度を選んだのは残念なことです、が、それも単に、在職中ずっとだったいかにもあの方らしい振る舞いというに過ぎません。そうじゃなければこれをどう説明しますか? [ノーノーメモを取り出す]夕べ私の父が受け取ったこの書状は、この女性がやりかねない狭量な仕打ちの完璧な一例です。
ランガー:私どもは全員、夕べのあなたのお父様の行動を知っています。よくもまあ恥ずかしげもなくその話を持ち出せますね。
フレイジャー:恥ずかしい? 全くそんなことはありません! 私は父の行ないを擁護します! 父は、自分の可愛い友だちを、その子がいるべきでない場所に出しました。が、それがどうかしましたか? 父は何年もそうしてきました!
ランガー:お父様の行ないを認めるんですか?
フレイジャー:認める? むしろ褒めたたえます! あなたには同情のお気持ちはないのですか? 父は年老いつつあり、人生に残された楽しみは多くありません。あの可愛い友だちが父にくれた喜びの時間がどれほどのものか、数えることもできません! 彼だけではありません。あの可愛い子を見てにっこりせずにいられる人がいますか? もちろんわかってます、あの可愛いエディがとんでもないときに急に現われたりすると厄介なこともあります、しかし…
ランガー:お父様はあれにエディという名前を付けているんですか?
フレイジャー:まあ僕が名前を付けるなら「エディ」とはしませんがね。もうちょっと-何ていいますかね、奇をてらった、そうだ、…パックとか!
ここまでで聴衆はすっかり度肝を抜かれている。フレイジャーはそれを取り違える。
フレイジャー:ご承知の通り、シェークスピアの『真夏の夜の夢』に出てくるいたずらっ子の妖精です。そんなに驚かないで下さい! たまにエディを解き放ったからといって、深刻な害を受ける人がいますか? どうですか、こんな振る舞いをするのが彼だけだとおっしゃいますか。ミセス・トーンキストさん、あなただってフラッフィーと同じことをやってるじゃないですか。[彼女はショックを受ける]私に言わせれば、この振る舞いは無害どころか、あっぱれとさえ言えます。だって、父がエディを遊び場に連れ出したときに学童達の顔に現われる表情を見ていただきたいものです。
この混乱の中、ダフネが入ってきてフレイジャーに素早く耳打ちする。フレイジャーは内容を飲み込むのに少し時間がかかる。
フレイジャー:それはそれとして…規則は誰にだって必要ですよね。[ダフネに向き直って]帰るぞ! 行け! 行け!
ダフネとフレイジャーは飛び出し、フレイジャーが扉から顔だけ出して
フレイジャー:あっ、ノッカーのこと、ごめんなさい。
フレイジャーは退場、残された皆は当惑している。

第2幕了


エンドロール

エレベーターの背後からの視角。扉が開くとミズ・ランガーが現われ乗り込んでくる。エレベーターが着くのを待っている。するとミズ・ランガーの頭上をバゲットが漂う。別の視角からエレベーターを見ると、パンの棍棒を持っているのはダフネ。ミズ・ランガーがダフネを振り向くと、ダフネはすぐにフランスパンをかじるふりをしてごまかす。ミズ・ランガーがようやくエレベーターから降りると、ダフネはアヴェンジャーが銃を差すようにパンの棍棒をバッグに差す。