Top > Season 4 > Episode 9

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[4.9] Dad Loves Sherry, The Boys Just Whine

[4.9] 父さんはシェリーが好き、息子らはワインばかり[訳注:whine=泣きごとを言う]



第1幕


第1場−カフェ・ナヴォーサ


ナイルズがふらりとカフェに現われて、近くのテーブルに座っているフレイジャーとモーリーン[原注:[3.20] "Police Story" に登場]に挨拶。
ナイルズ:やあ、兄さん。
フレイジャー:ナイルズ。
ナイルズ:どうも、モーリーン。
モーリーン:今日は、ナイルズ。
ナイルズは注文しようとカウンターに近づくが、そこにはロズがすでにいて自分の注文を待っている。
ナイルズ:ノン・ファットのカフェお願い。
ロズ:私が払うわ。
ナイルズ:お、ありがとう。今日はいい知らせで始まったんだけどますますよくなってきた。このご馳走の理由は何?
ロズ:今日は私にとってもすごくいい日なの。数ヶ月前、初めてテニスのレッスンを受けたのね…
ナイルズ:それでようやくバックハンドをマスターした?
ロズ:いいえ、それ以来テニスやってないのよ。でも、教えてくれた先生が…
ナイルズ:乙女心をガッチリ?
ロズ:いいえ、あいつはダメ男。でも、その日、彼がドロップショットを打ってきたんで私走ったらつまづいちゃって、足の指の爪に血マメができちゃったのよ。3ヶ月かそこら消えなくて、今日やっと取れたの。[ナイルズは全く解せないでいる]これでまたサンダルが履けるのよ!
その間、彼らの背後では、モーリーンが立ち上がって出ようとしているのをフレイジャーが見送っている。
モーリーン:ありがとう、フレイジャー。
フレイジャー:さよならモーリーン、元気でね。
モーリーン:ありがと。
彼女は扉から出て行き、ナイルズが近づいてきてフレイジャーと合流。
ナイルズ:フレイジャー。スプーン借りていい?
フレイジャー:もちろん。
ナイルズ:[スプーンでコーヒカップを叩き鳴らす]お知らせがあります。
フレイジャー:実は僕もなんだ。父さんのガールフレンドがちょっとしたビッグニュースを知らせてきてさ。
ナイルズ:僕らの兄弟になる赤ちゃんを身ごもったっていうんでもなきゃ、僕のニュースを先にしてもらうよ。[ナイルズの顔に怯えが広がる]まさか違うよね?
フレイジャー:ないない。
ナイルズ:じゃ、今年の「精神医学文献への顕著な貢献に対するマリエット・ファスビンダー賞」をもらったのは誰でしょう?
フレイジャー:うーん、口からカナリアの羽が覗いているところから察するに、さてはお前だな。どの論文でもらったの?
ナイルズ:自己愛型オペラ歌手の興味深い病歴。「私、私、私、私、私」って題名にしたんだ。
フレイジャー:[クスクス笑って]うまいもんだね、気に入った。
ナイルズ:ワクワクしてはいるんだけど、授賞式の晩餐会がちょっと心配なんだ。
フレイジャー:何で?
ナイルズ:父さんのことだよ! もちろん父さんには来てほしいけどさ、ヴィー叔母さんの結婚式の再現になったらと思うとゾッとするんだ。
フレイジャー:ああ—ナイルズちゃん物語でテーブルが大ウケしたときね。
ナイルズ:まさに。僕の想像上の子分のシェルドンの話を満座のベテラン精神分析医たちが聞いているところを考えてもみてよ。
フレイジャー:ああ、シェルドン君ね。お前の布団をいつも濡らしてた困った小僧のことだな! しかしなあ、—父さんをその催しから締め出すことを考えてるとしたら、これ以上最悪のタイミングはないよ。今週は父さんの誕生日なんだから。
ナイルズ:だよね。
フレイジャー:その上、モーリーンが父さんと別れるつもりだって言ってきたんだ。
ナイルズ:えっ、まずい! 年の差のことなの?
フレイジャー:いやいや。その点は彼女は力を込めて語ってたよ。ただ、彼女は二人の間に共通のものが何もないって思ってるんだ。
ナイルズ:かわいそうに、父さん。デートをすごく楽しんでたもんね。
フレイジャー:ああ。つい最近もさ、父さん、彼女の警察バッジと自分の身障者ステッカーがあればどこに駐車しても平気って言ってたし。
溶暗

第2場-フレイジャーのアパート


フレイジャーは掃除中。ダフネが入ってくる。
ダフネ:ただいま、ドクター・クレイン。
フレイジャー:ダフネ。先に帰ってきてくれて助かった。言っときたいことがあるんだ。
ダフネ:何です?
フレイジャー:父さんとモーリーンが今デートに出かけてる。でもうまく行ってない。彼女が別れたいって父さんに言ってるはずなんだ。
ダフネ:えっ。その降りてきたヴィジョン—それ、ヒリヒリするような感覚で頭に浮かんだ光景ですか、それとも耳の中でブツブツ言ってるしゃがれ声みたいな感じ?
フレイジャー:[イラッとして]ヴィジョンじゃないの。モーリーンが僕に言ってきたの、今日のお昼に。僕はただ父さんが心配なんだ。こんな目に遭った父さんを助けられるんなら何でもやんなきゃ。
ダフネ:お父様のことはあまり心配じゃないですよ。ドクターが思うよりも人間ってずっと立ち直りは早いですよ。だって、数週間前、ジョーが私を振ったときにはもう人生に愛せるものなんてないと思ってました。理想の姿で今後の人生を過ごしているのを思い描いていたんですもの。自分たちで建てた家、走り回る子供たち、共に年を重ねて…ジョーが結婚するって言いましたっけ?
フレイジャー:残念なことだったね。
ダフネ:いいえ、私は大丈夫です。
ダフネは酒のキャビネットに向かうと崩れ折れて、1本のワインを掴む。
フレイジャー:[彼女を慰めようと近づいて]ああ、ダフネ、ダフネ…[瓶のラベルを調べる]大丈夫だよ。[ダフネは去る]
その間、場面は切り替わってアパートの外になり、マーティンとモーリーンがデートから戻ってきたところ。
モーリーン:ああ、あなたがインド料理が嫌いって知ってたらよかったのに。
マーティン:いや、よかったよ。慣れるのにちょっと時間がかかるだけさ。
モーリーン:そうね。またいつか試してみてね。
マーティン:[軽くゲップして]今試したみたい。ちょっとコーヒーでも飲んで行かないかい?
モーリーン:いえ。気分悪そうだもの。ここで失礼しようと思うわ。
マーティン:しかし何か話したいことがあるって車で言ってただろ。
モーリーン:またのときでいいの。
二人はお休みのキスをして、モーリーンはエレベーターに戻っていく。マーティンはアパートに入る。
フレイジャー:おかえり、父さん。
マーティン:ただいま。
フレイジャー:デートはどうだった?
マーティン:[苦痛の表情で]ひどかった! 一生で一番気分が悪い。はらわたが切り裂かれたみたいだ。
フレイジャー:父さん、間違いのないように言っておくけど、これは年齢とは関係ないんだよ。
マーティン:そんなことがあってたまるか。20年前ならこんなことにゃならんかったさ。
彼は洗面所に入る。
フレイジャー:ね、父さん、こんなことを言うのはどうかと思うけど、モーリーンは僕にこの話をしてくれてたんだ。
マーティン:[扉の向こうから]何だって?
フレイジャー:そうなんだ。僕に助言を求めてきてね。そうやって彼女は父さんの気持ちを傷つけないように決めたんだ。ただ、これだけははっきりさせておきたいって、別れるのは父さんの年齢のせいじゃなくて、二人の相性だったんだって。だって二人が同じ食事や音楽とか映画とかが好きじゃなかったとしても父さんのせいじゃないもの…
マーティンはマーロックス[訳注:胃薬]の瓶を持って出てくるがキョトンとしている。
フレイジャー:…で、彼女はこの話題は切り出さなかったんだね?
マーティン:いや。
フレイジャー:父さん、ごめん。
マーティン:モーリーンはもうわしに会いたがっていないのか?
フレイジャー:ああ、本当に困った。ね、父さん、つまり、僕は父さんが今どんな気持ちかはっきりわかってるよ。でも信じて、この痛みは過ぎ去る。時間はかかるかもしれないけれど。
マーティン:こりゃいいぞ!
フレイジャー:あるいはよくない!
マーティン:まあ見てろって、シェリーに言うから。
フレイジャー:シェリー?
マーティン:[マーロックスの容器を持ち上げて]こりゃよく効く。プレッツェルはあったかな?
フレイジャー:父さん—いったいシェリーって誰?
マーティン:シェリーは、マクギンティで会ったすごくいい女なんだ。いやさ—わしはこの数週間、モーリーンに別れ話を切り出す勇気を振り絞ってたんだよ。
マーティンは上機嫌で電話をかけ始めようとする。玄関のベルが鳴って、フレイジャーが応えに行く。
フレイジャー:驚いた。僕は午後じゅうずっとモーリーンが父さんの気持ちを傷つけると心配してたら、父さんは二股かけてたってわけか—
覗き窓から見て焦ってマーティンを振り返る。
フレイジャー:モーリーンだよ!
フレイジャーはモーリーンに扉を開けてやると、マーティンは電話をあわてて叩きつけるように置き、取り繕う。
マーティン:やあ、モーリーン。お入り。何か忘れものかい?
モーリーン:ええ。あの…[フレイジャーを見て]
フレイジャー:僕のことは気にしないで、ちょっと出かけるところで…[部屋着を着ているのを思い出して]…お手洗いに。
フレイジャーはバスルームに入る。
モーリーン:あなたに言いたいことがあったの、先延ばしにするのはあなたに対して失礼だと思って。
マーティン:[心配げなふり]何だい?
モーリーン:私たち、もううまくやっていけないと思うの。
マーティン:[ショックを受けたふりをして座り込む]そう思うのかい? ああ。まさかこんなことになろうとは。
フレイジャーは軽蔑した表情でバスルームの扉から覗いている。
モーリーン:マーティ、年の差の問題じゃないのよ。私たち、話すことといったら警察の話ばかりじゃない—私は楽しかったけど—でもただ…
マーティン:モーリーン、よせよせ。説明する必要はないよ。君みたいに俺には過ぎたものをいつまでも自分のものにしておけるもんじゃないとは俺だっていつも思ってたさ。[杖でフレイジャーの面前でバスルームの扉をぴしゃりと閉める]でも少なくともしばらくはそれができたんだ。
モーリーン:じゃああなた、大丈夫?
マーティン:[つらそうなふり]いつかは大丈夫になるよ。少し時間がかかるだけさ。でも君は自分を大事にするんだよ。
モーリーン:ええ、あなたも。
二人はさよならのキスをしてモーリーンは去る。扉が閉まるか閉まらないかのうちにマーティンは杖を高々と掲げて大喜びで笑って祝福する。フレイジャーがバスルームの扉から出てくるが、片目を押さえて極めて不愉快そう。
フレイジャー:このインチキじじいめ!
マーティン:何だと?
フレイジャー:彼女に父さんの心を傷つけたと思わせたな。
マーティン:もちろんさ。女と別れるときには悲しそうにふるまわなきゃならん。礼儀ってだけのことさ。
フレイジャー:礼儀? 何てこと言うんだ、父さん、罪の意識はすごく破壊的な感情なんだ。
マーティン:もう、アイヴィーリーグの戯言はやめとくれ。男の気持ちを傷つけたと思うよりも男の気持ちに痕さえ残さなかったと思いたがる生身の女なんかいないね。ハーバードにゃ行っとらんが恋愛の専門学校には行ったんでね。
フレイジャー:スピレイン[訳注:ハードボイルド作家。女性の扱いがここでのマーティンと同じとか]の奨学金でだね!
溶暗/場面転換

お座席のベルトをお締め下さい

第3場-フレイジャーのアパート


ナイルズがマーティンの誕生日プレゼントを持ってフレイジャーのアパートに到着。フレイジャーとダフネは居間におり、マーティンは寝室にいる。
ダフネ:いらっしゃい、ドクター・クレイン。
ナイルズ:やあ、ダフネ。
フレイジャー:ナイルズ。
ナイルズ:フレイジャー。誕生日の子はどこかな?
ダフネ:ミスター・クレインはガールフレンドのためにおめかし中です。お父様のウキウキなさってる様子をぜひご覧になって。
フレイジャー:この新しいビデオを見たらもっとウキウキするよ。第二次世界大戦史12巻セット!
ナイルズ:本物は面白かったけど短すぎたって思う人向けだね!
フレイジャー:今年は考えたんだ、「かまうもんか、僕が父さんに必要だと思うものじゃなくて父さんが本当に必要なものをあげよう」ってね。
ナイルズ:立派な心がけ。
ダフネ:何を用意されたんですか?
ナイルズ:アルマーニのタキシード。[]えーっと、僕の晩餐会が近づいてるからさ。
マーティン:[スーツを着て現われる]よお、ナイルズ。
ダフネ:あら。おしゃれじゃないですか?
マーティン:そうかい、ありがとう。扉の音がしたんでシェリーかと思ったんだ。
ナイルズ:あれ、僕、シェリーや父さんの友達とはレストランで合流するんだと思ってた。
マーティン:ああ、気が変わったんだ。その、何だ、わしが思ったのは… お前たちが彼女に会うのが心配で、そりゃお前たちは彼女のことを好きになるに決まってるさ、今言ったことは忘れてくれ。つまり好きになるさ、何も言わんでくれ、心配になっちまうから。[玄関のベルが鳴る]来たぞ。フレイジャー、出てくれんか? いやいや、待て。わしが出よう。
フレイジャーとナイルズは微笑んで見ている—つまり、扉が開いてピンクのミニスカートを履いてピンクのブラウスを着た中年女性が現われるまでは。彼女は1本の瓶とプレゼントを携えている。
シェリー:お誕生日おめでとう!
シェリーはほとんどマーティンの腕に飛び込むようにして、すごい音をさせてキスをする。息子たちは少しあきれる。
マーティン:入って家族に会ってくれ。
シェリー:[フレイジャーを抱いて]今日は! シェリー・デンプシーよ。マーティったら、あなたたち二人がこんなに素敵だなんて教えてくれなかったわ![ナイルズをぎゅっと抱き締める。ナイルズは作り笑い]
ダフネ:初めまして。ダフネ・ムーンです。
シェリー:あーら—理学療法士さんね。心配しなくても大丈夫よ。私はヤキモチ焼きじゃないから。私のマーティをほぐしてくれる人だったら誰でも私の名簿のスターよ。
マーティン:[ちょっと踊って見せて]さ、座って、シェリー。さあさあ。な、フレッズ、シェリーはお前の番組の大ファンなんだよ。
シェリー:そうなの、大ファン。本当の話、私の友達のドナの結婚が暗礁に乗り上げちゃったとき、彼女がアドバイスを求めたのがまさにあなた。
フレイジャー:本当ですか? 僕のアドバイスは役に立ったみたい?
シェリー:それはどうでもいいの。あなたは気にかけてくれた。それが大事。
ダフネ:お飲み物いかがですか?
シェリー:あのね、実際、特別な機会だから発泡酒持ってきたの。ポーンと開けちゃって![瓶をナイルズに投げ、ナイルズはやっとのことでキャッチする]
ナイルズ:ええ、もちろんですとも。[作り笑い]あっ、見て、フレイジャー—コールド・ダックだ。
シェリー:飲んだことある?
フレイジャー:一度だけ!
ダフネ:私が注ぎましょう。
シェリー:ホント、このアパート素敵だわ。まあ、ちょっとした眺めじゃない。
フレイジャー:ありがとうございます。
シェリー:で私の部屋はどこ?
フレイジャーとナイルズは顔を見合わせる。
シェリー:ひっかかった!
マーティン:シェリーはいつもこうなんだ。
シェリー:私は人を笑わせるのが好きなの。私にとってはユーモアは薬みたいなものなのよ。
ナイルズ:[フレイジャーに小声で]僕らは偽薬群に入ってるみたいだよ。
フレイジャー:で…父に聞くところでは二人はマクギンティで会ったとか。
シェリー:そうなの。私、そこのバーを任されてて、ある晩あなたのお父さんが一人ぼっちでさびしそうに見えたんで、私は思ったの…
ダフネ:[飲み物を持って現われて]さあ、乾杯ですよ![訳注:Bottoms up! 後ろからヤルの意も]
シェリー:ま、そんなとこ。
ダフネ:[飲み物を配りながら]さあまいりましょう。お誕生日おめでとう。
シェリー:唇をくぐり抜け歯茎を乗り越え…
フレイジャー:見よ、味蕾よ、とうとうやってきた。[訳注:乾杯の音頭。元は味蕾ではなく胃袋。Look out stomach, here it comes.]
シェリー:その言い方は知らなかったわ。
皆ひと口飲む。だが、フレイジャーとナイルズは後ろを向いて吐き真似をする。二人はソファに行って立ち直りを図り、失礼にならないようになんとか作り笑いしようとする。
シェリー:私、注意しなくちゃ。これ二杯飲んだらテーブルに乗って踊り出しちゃうわよ。
マーティン:そうだな。シェリーは舞台に立ってたことがあるんだ。
フレイジャー:ブロードウェイですか?
シェリー:ラスベガスよ。行ったことある?
フレイジャー:一度だけ!
シェリー:すごい街よね? 素晴らしい料理、おそろしく素敵な劇場、結婚するのもバカみたいに簡単。[ナイルズを見て]別れたんですってね?
ナイルズ:ええ。
シェリー:私も経験あるわ。私のアドバイス聞きたい?
ナイルズ:えーっと…
シェリー:クヨクヨするな! すぐに鞍に乗り直せ。私の母が私にいつも言ってたの、「シェリーちゃん、誰かを乗り越えるためには誰かの下になることよ」って。
マーティンはこの冗談を聞いて笑い転げる。言うまでもなくナイルズは少しショックを受けた様子。
シェリー:まあ、私の母さんはこんなことばっかり言ってたわ。
ナイルズ:[ソファに倒れ込みながら]メイ・ウエストに子供がいたとは知らなかった。
マーティン:さて、出かけた方がよさそうだな、スッキリしたいなら今のうち行っとけよ。すぐそこだ。
ダフネ:ご案内します。
シェリー:[マーティンに向かって]何をしようとしているかわかってるわよ。感想を聞きたいんでしょ。[フレイジャーとナイルズを見て]思いっきり褒めてね。
シェリーはダフネとバスルームへ向かう。
マーティン:そんなんじゃないさ。自分がよっぽど賢いと思ってるな。[フレイジャーとナイルズに向き直り]で、どう思う?
フレイジャー:[言葉が見つからず]えーっと…ワオ。
マーティン:ナイルズは?
ナイルズ:えーっと…ワオときたならウヒャーに積み増し。
マーティン:お前たちが彼女を気に入ってくれてうれしいよ。本当に好きなんだな?
フレイジャー:ああ、父さん。
ナイルズ:全くそのとおり。
マーティン:そうか、やった! わしらはここでもっと過ごすつもりでいるんだ。シェリーはエレベーターのない4階の建物に住んでるんで、わしの腰には地獄でな。もっとも彼女がバンジョーを弾くんならスペース・ニードルでも登るけどな。
フレイジャーとナイルズは何も言えないでいる。かわりに、ただコールド・ダックに手を伸ばして飲み干す。シェリーとダフネが戻ってくる。
シェリー:さあみんな。お待ちかねの人が戻ってきたわよ。
ダフネ:ね、私ずっとお聞きしたかったんですけど、着けてらっしゃるいい香りは何の香水?
フレイジャー:ああ、僕も何だろうと思ってた。
シェリー:奥方の寝室って言うの。[扉に向かい、マーティンとダフネが続く]信じられないかもしれないくらいお買い得だったの。100ドルもあれば溺れるくらい買えたのよ。
ナイルズ:[フレイジャーと一緒に扉までゆっくりと歩きながら]60はもらってるよ!
溶暗/場面転換

女人禁制

第3場-カフェ・ナヴォーサ


ナイルズとフレイジャーは座ってコーヒーを飲んでいる。
ナイルズ:繰り返しになるけど、夕べの食事に行けなくてごめん、でも喉がチクチク…
フレイジャー:見え透いた言い訳はいいよ、ナイルズ。お前が来なかった理由は俺にもお前にもわかってる。
ナイルズ:シェリーはどうだった?
フレイジャー:相変わらず派手だったよ。夕べは、恋人たちのための未公開滑稽詩集から精選作品を披露してくれたんだ。最後の幾つかの詩は旅慣れた男についてのもので、その男はたまたまホレーシオって名前だって言うんだ!
ナイルズは一瞬何のことかわからないが、すぐに気づいていかにもいやそうな顔をする[訳注:limerick Horatioでググってみて下さい。名前で押韻した下品な滑稽詩がいくつも出てきます]
突然、ナイルズの表情に怯えが広がる。

ナイルズ:まいったな。振り向いちゃだめだよ。
フレイジャー:誰?
ナイルズ:父さんが、ソフィー・タッカーを連れてる!
フレイジャー:何てことだ。だってここは僕らのたまり場なのに。
ナイルズ:見ちゃダメだよ。
マーティンとシェリーが入ってきて、当然シェリーは彼らに直ちに気づいて窓を大きな音で叩く。
シェリー:今日は! 調子はいかが? だ〜れだ。あらぁ、何てかわいい店かしら。いつも通ってるのに入ったことなかったわ。
マーティン:ああ、息子たちはここが好きなんだ。
シェリー:そう、私たちも来ることにしなきゃ。さて、そこのテーブルちょっと席を空けて。すぐ戻るから。一服しましょ。
フレイジャー:[絶望的に]急げナイルズ、梯子を上げろ。俺たちのクラブが見つかっちまったぞ!
ナイルズ:もうやってらんないよ。
フレイジャー:そのとおりだな。父さんに丁寧に伝える必要がある。父さんがいくら彼女といて楽しかったとしても、僕らの生活を侵す権利はないんだ…って意味の丁重な言い方は何?
ナイルズ:ね、わかんないけど兄さんなら見つけられるよ。
フレイジャー:僕? 一人でやれっての? 二人で父さんを座らせて話せると…
ナイルズ:いやいやいや。
フレイジャー:…二人でさ。
ナイルズ:いやいや。このお説教をするのは兄さんだと思うな。
フレイジャー:でもナイルズ、僕ら二人ともにとっての問題なんだよ。
ナイルズ:おっととと。シェリーは僕のアパートに入り込んでるわけじゃないもん。僕なら我慢できるよ。
フレイジャー:小ずるいイタチ男だな?
ナイルズ:父さんはそのイタチが好きなんだ。[立ち上がる]
シェリー:[テーブルに近づいてきて]ナイルズ、忘れる前に言っとかなきゃ。あなたの晩餐会ね—お上品に気取って話すようなものなの?
ナイルズ:えーっと、招待状に書いてあるわけじゃないけど、そうですよ…[ヒヤリとする気づきの気配]なぜ?[座り直す]
マーティン:それが、ダフネが風邪ひいちゃったんでシェリーがダフネの入場券をもらうことになったんだ。
フレイジャー:そりゃいい! もうすぐだよね? たぶんお説教に取りかかった方がいいね。
シェリー:じゃ、素敵なドレスね? よし。背中のあいたヒョウ柄のびっくりするようなドレスを買ったのよ。
ナイルズは今にも爆発しそう。
マーティン:ひっかかった!
シェリーとマーティンは二人で爆笑する。ナイルズは作り笑いするが苛立っている。フレイジャーは笑っているシェリーに突き飛ばされている。
シェリー:あらごめんなさい。押し出しちゃったわ。
フレイジャー:大丈夫。ちょうど出るところだったんです。
シェリー:あら、行っちゃうの? ねえナイルズ、晩餐会のことは心配しないで。ちゃんとしたドレスといちばん上等なダンス靴を履いてくから。
ナイルズ:ダンスはないかも。
シェリー:シェリーに任せなさいって!
シェリーとマーティンはまた二人で笑う。ナイルズも笑うが急いで外に出て、すでに逃げ出していたフレイジャーに合流する。
フレイジャー:さーて、お前のちょっとした晩餐会は楽しくなりそうだぞ。ドクター・グードフロインドがリンボーダンスの棒をくぐってヘルニアを悪化させないといいね!
ナイルズ:父さんに話さなきゃ。人生で一番大事な夜を彼女のせいでめちゃくちゃにされたくないよ。何て言えばいい? フレイジャー、助けてよ。
フレイジャー:さーて…お前は僕を見捨ててこの厄介ごとを一人で片づけさせるつもりだったようだが、恨みは水に流すとするか。今晩一緒に父さんと対決して自分の分の責任は果たそう。
ナイルズ:ありがとう。
フレイジャー:[微笑みながら]ひっかかった!
笑って立ち去る。

第1幕了



第2幕


第1場-フレイジャーのアパート


マーティンは椅子に座って今夜のお楽しみを決めようとしている。ナイルズはマーティンの背後で床の上を行ったり来たりしている。
マーティン:でナイルズ、今晩はどれの気分だ? ノルマンディーか、それともバルジの戦いか?
ナイルズ:どっちでも。
マーティン:一晩中そわそわしてるぞ。何か気になることでもあるのか?
ナイルズ:えーっと、実はそうなんだ。僕の授賞晩餐会のことなんだ。
マーティン:へえ?
ナイルズ:父さん、すごく言いにくいことなんだけど、できたら父さん…[怖気づいて]そのズボンは履かないでほしいな。
マーティン:履かんよ。わしはお前がくれたアヴァンティとやら[訳注:アルマーニを間違えている。アヴァンティは伊社会党の機関紙]のタキシードを着るから。どうしたんだ?
ナイルズ:ごめん、ごめん。僕、どういうのか、明日の夜のことで心配になってるだけだよ。何でかわかんないけど。
ナイルズはシェリーのバンジョーが椅子に置いてあるのを見て爪弾いてから、バルコニーに出る。
フレイジャー:[入ってきて]ただいま、父さん。
マーティン:よお。
フレイジャー:[ナイルズがバルコニーにいてマーティンが不機嫌なのに気づいて]どうかした?
マーティン:お前の弟はよくよく失礼なヤツだよ。気取ったディナーの席で誰かさんのせいで自分が恥をかくんじゃないかとビクビクしてやがる。
フレイジャー:ああ…そのことなら僕も聞いたよ。でもね、ナイルズを弁護するけど、あいつにとって大事な夜なんだ、率直に言おう、シェリーはちょっとやり過ぎって感じ。
マーティン:シェリーがか?
フレイジャー:批判しようと思ってるわけじゃないんだ、わかって。そういうのが好きな人もいる。でもナイルズがこの話題を切り出したんなら僕も言わなきゃいけないけど、僕もシェリーはちょっと騒々しくてけばけばしい…[マーティンのキョトンとした顔を見て]ナイルズは何も言ってないんだね?
マーティン:そう思うよ。シェリーが問題なのか?
ナイルズ:[戻ってきて]あの愉快なひとが?
フレイジャー:もう、いい加減にしろ! お前にはまだ脊椎のドナーが必要なようだな! 父さん、この話題を続ける理由はないよ…
マーティン:いやいや。言いたいことがあるんだろう、聞こうじゃないか。シェリーが嫌いなのか?
フレイジャー:どうかわかって、父さん、父さんにいい人がいるのは僕らもうれしいんだ…
マーティン:でも彼女は嫌いなんだろ?
ナイルズ:いやいや。そうは言ってないよ。彼女は、僕らなら一緒に過ごすために普通選ぶ人じゃないんだ。
マーティン:言い方を変えれば、お前たちは彼女を嫌いなんだな? さあ、わしらはみんな大人なんだ。本当のことを言えよ。
フレイジャー:[]わかった、父さん、僕らは彼女が嫌いだ。
マーティン:結構! それがお前たちの感想なんだな? 気にするな、もう彼女を連れてくることは金輪際ないよ。わしは自分が好きな人間を喜んでもてなしてくれるものと自分の家族に期待しすぎたようだ!
彼はキッチンへ向かう。
フレイジャー:ちょっと待った! じゃあ父さんはいつ、僕らが関わった女性の、誰でもいい一人でも喜んでもてなしてくれたかい?
ナイルズ:あっ、フレイジャー、そうだよ! 父さんは気づかないふりをして逃げようとしてる!
フレイジャー:リリスが父さんの家に足を踏み入れて、自分はバイキン並みに歓迎されてるって彼女に思わせなかったときがある?
ナイルズ:そうだ、マリスは言うに及ばず!
マーティン:シェリーみたいに温かい女を冷凍雪女と比べるのか?
フレイジャー:そこだよ! それがまさに僕が話していることなんだ。さあ、事実を直視しようか? つまり、いつから、俺たちのうち誰でもいい一人でも、—シェリーからリリスからマリスからダイアンに至るまで—他の二人にとって目に入っても耐えらえれるような女性をが選んだことがあった?
マーティン:わしはお前のかあさんを選んだぞ!
フレイジャー:[ぎこちなく]ごめん、ナイルズ。僕一人でしゃべっちゃったね。
ナイルズ:えーっとー…
マーティン:ま、忘れてくれ。お前たちは正しいよ。わしの方がましな人間なわけでもないのに、何でお前たちに努力することを期待できるもんか? へっ、お前たちはたぶんわしに似たんだ。間違いなく母さんに似たんじゃないな、だって母さんはこういうことにかけては大したもんだったんだから。母さんは誰かに会ったらいつでもその人間の好きになれる点を見つけてた。それが俺がかあさんを好きだった理由の一つだ。そしてシェリーを好きな理由の一つでもあるのさ。そういう点ではシェリーは母さんにとても似てるんだ。彼女はいつも何かを見つける—たとえお前たち二人であってもな。
フレイジャー:まあ、僕たちはみんな、お互いが連れてくる人間についてもう少し寛大になってもいいかもしれないね。
マーティン:少なくとも何かいいことが言えないなら何にも言わない方がいい。
玄関のベルが鳴る。
ナイルズ:静かな感謝祭を過ごすはずだったけど、僕なら大丈夫だよ。
フレイジャーが扉を開けてシェリーを迎える。
フレイジャー:いらっしゃい、シェリー。
ナイルズ:いらっしゃい。
フレイジャー:素敵じゃないですか? お入り下さい。
シェリー:まあ、ありがと、フレイジャー。ねマーティ、私、もう一つちょっとしたプレゼントを持ってきたの。[包みを渡す]
マーティン:もう一つ?
シェリー:ええ、誕生日に渡したかったんだけどサイズが合ってるか確かめるのにちょっと時間がかかっちゃって。
マーティン:本当? たいがい何でも合うんだがな。
シェリー:あなたが着るものだって誰が言った?
マーティン:ホーホー、見る前から気に入ったぞ。
ナイルズとフレイジャーはちょっと視線を巡らせてお互いを見る。シェリーは二人の当惑に気づく。
シェリー:あら、もうやめなきゃ。息子さんたちが気まずそうよ。
マーティン:そんなこたあない。[二人を見て]な?
ナイルズ:[どう見ても上っ面で]まっさか〜!
フレイジャー:言えてる!
マーティン:[シェリーの手を握って]さ、部屋に行ってこれを開けてみよう。
彼らが去りしなに、フレイジャーはマーティンにだめ押しする。
フレイジャー:そうだ、父さん? フレデリックが次回来るときにリリスも一緒に来るつもりだって言ってたよ。彼女を泊めても気にしない?
マーティン:[どう見ても上っ面で]ああ、リリスか! ぜーんぜん、いいじゃないか、リリスは大好きさ。素晴らしい。いつでも歓迎だよ。
シェリー:マーティン、手が痛いわ。
フレイジャーとナイルズは互いに微笑む。
シェリー:[ナイルズとフレイジャーに]あのね、言っとかなきゃ。私、夢遊病のケがあるのよ、だから夜目が覚めて、私が裸でここにいたら思いっきり揺さぶってやってね。すぐ正気に戻るから。
フレイジャーとナイルズは二人ともこれを聞いて笑う。
フレイジャー:やられた、うまいよ!
だがマーティンとシェリーは笑っていない。息子たちは笑いやめて心配そうに互いを見やる…するとマーティンとシェリーが大笑いしだす。
マーティンとシェリー:ひっかかった!
彼らが寝室に去るのと同時にナイルズはマーティンのバランタインに手を伸ばす。

第2幕了


エンドロール

フレイジャーとナイルズはソファに座っているが口もきけないような様子。
カメラが右にパンすると、エディとマーティンがいつもの場所に座っている。マーティンは息子たちの表情に気づいて、元気を出せと杖を振る。フレイジャーとナイルズはすぐに作り笑いして楽しそうに手を叩こうとする。
カメラが再び右にパンすると、彼らが何を披露されているかがわかる—シェリーがバンジョーを弾いているのだった!
シェリーととマーティンが見交わしている間に、フレイジャーとナイルズは自分たちのマーロックスのボトルをこっそりグイッと飲んで、テーブルの下に隠す。